運搬は、それ自体では付加価値を生まない作業です。原材料や仕掛品を右から左へ動かしても、製品の機能や品質は変わりません。それでも現場から消えないのは、置き場と工程の位置関係が離れているからです。運搬のムダを減らす近道は、いきなり配置を変えることではなく、まず「どこを・何回・何メートル運んでいるか」を数字で押さえることにあります。本稿では動線分析の手順、置き場を決める「3定」のルール、運搬回数を減らす4つの手、効果の測り方の順に見ていきます。
運搬は人が歩いて荷を持つ作業でもあるため、動線を詰める前に安全面の最低ラインを共有しておくと、後工程の合意が早くなります。
数値・条文は2026年8月時点で公表・施行されているものです。
運搬は「付加価値を生まない」作業だという前提と安全
生産管理の分野では、運搬・在庫・手待ち・加工そのもの・不良の手直し・つくりすぎ・動作のムダを合わせて「7つのムダ」と呼ぶ整理が広く使われています。このうち運搬は製品に新しい価値を加えないため、他の条件が同じなら、回数と距離を減らすほど原価に効きやすいムダとされます。ただし運搬を急いで減らそうとして通路や置き場を詰めると、今度は安全側のリスクが上がります。
厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」(令和7年5月30日公表)によると、荷を車両で運ぶ陸上貨物運送事業の休業4日以上の死傷者数は16,292人(前年比0.5%増)、死亡者数は108人でした。全産業の休業4日以上死傷者数は135,718人で4年連続の増加です。この統計は輸送業の集計であり、事故の型別の内訳までは示していません。工場内の構内作業の件数や事故の型をこの数値から直接推定することはできませんが、荷を持って移動する作業には相応の安全管理が求められる点の目安になります。
まず測る「回数×距離」——動線分析の手順
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21「業務プロセスの見直しによる生産性向上」は、生産性向上の基本を作業工程の「見える化」に置き、移動時間などのムダを明確にすることを最初の一歩としています。動線分析はこの見える化を運搬に絞って行う手法です。
手順は、工場のレイアウト図に対象品目(原材料・仕掛品・完成品のいずれか)を決め、担当者が実際に運搬した経路を線で描き込みます。同じ経路を往復した線、遠回りした線、交差した線が重なった図は「スパゲティ図」と呼ばれ、線の重なりが多い箇所ほどムダが集中している候補地点です。
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| 記録する項目 | 何のために測るか | 現場での測り方 |
|---|---|---|
| 運搬回数 | 他の条件が同じなら、頻度が高い動きほど削減効果が大きい | 1日・1週間の作業を実際に数える |
| 運搬距離 | 1回あたりの移動時間の見積もりに使う | レイアウト図上で経路の長さを測る |
| 1回あたりの搬送量 | まとめ運びの余地があるかを見る | 台車・パレットの積載実績を記録する |
| 待機時間 | 手待ちがムダの主因のことがある | 搬入・搬出口での待ち時間を測る |
1回あたりの移動時間が2分、1日30回、年間稼働日数240日であれば、年間の運搬移動時間は約240時間という計算です。このうち実際に短縮できた分だけが削減時間になります。

置き場を決める「3定」のルール
動線分析でムダの候補地点が見えたら、次は置き場のルールを決めます。現場改善で使われる「3定」は定位置・定品・定量の三つを指します。定位置はどこに置くか、定品は何を置くか、定量はいくつ置くかを決めることです。三つがそろうと、探す時間や余分な運搬を減らしやすくなります。
置き場の位置は出荷や使用の頻度で変えます。中小企業基盤整備機構のJ-Net21のビジネスQ&A「煩雑な倉庫内の業務を効率化したいのですがどうすればよいですか」(回答:中小企業診断士 大塚真太郎氏)は、入出庫口を分けて動線をU字型にすること、出荷頻度に基づいて保管場所を設定することを挙げています。頻度が高い品目ほど近くに置く考え方は、ABC分析で在庫管理を仕分ける記事の分類とも重なります。
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| ルール | 内容 | 現場での確認 |
|---|---|---|
| 定位置 | 置き場所を品目ごとに決める(複数箇所に置く場合は置き場ごとに明確化) | 床や棚にテープ・表示で区画を示しているか |
| 定品 | その区画に置いてよい品目を決める | 品目名・図番を表示しているか |
| 定量 | 置いてよい上限・下限の数量を決める | 満量線・発注点を目視で分かる形にしているか |
屋内の通路については、労働安全衛生規則第542条が「通路面から高さ1.8メートル以内に障害物を置かない」ことを定めています。区画線は、確保した通路幅の外側に引くのが原則です。

運搬回数を減らす4つの手
- 入出庫口を分けて動線を一方向にする:入口と出口を分け、U字型または一筆書き型の動線にすると、すれ違いや逆走を減らしやすくなります
- 出荷順を想定して生産・荷造りする:経済産業省・農林水産省・国土交通省「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(2023年6月策定)は、出荷時の順序や荷姿を想定した生産・荷造りで荷役時間を短縮することを挙げています。生産順を出荷順に近づけると、仕分けのための再運搬を減らしやすくなります
- パレット・マテハン機器で1回あたりの搬送量を増やす:同ガイドラインはパレット等の活用と、平面サイズ1,100ミリメートル×1,100ミリメートルのパレットの標準化を挙げています。ローラーコンベア・オリコン・カゴ車などの併用も前掲Q&Aが挙げる方法です
- 搬入出の待機時間を可視化する:同ガイドラインは荷主事業者に対し荷待ち・荷役作業等にかかる時間を合計2時間以内とすることを求めています(達成済みなら1時間以内が目標)。この考え方は構内の入出荷口でも応用でき、まず時間で手待ちを把握します
効果はどう測るか
改善の前後は、運搬回数・運搬距離・移動時間の三つを同じ条件(同じ品目・同じ生産量)で比べます。回数と距離が減っても1回あたりの移動時間が伸びていれば相殺されるため、三つをそろえて見ます。金額に換算する場合は、削減できた運搬移動時間に担当者の1時間あたりの人件費を掛け合わせる形が社内で共有しやすくなります。
前掲のJ-Net21「業務プロセスの見直しによる生産性向上」は、問題発見・対策・成果評価・さらなる改善というPDCAを循環させることで収益性が継続的に高まるとしています。動線分析も一度で終える改善ではなく、担当を決めて記録を残し、レイアウトや生産計画が変わるたびに測り直します。段取り替えの外段取り化も「動きを分解して記録する」改善で、段取り時間を短縮する記事で手順を扱っています。運搬・在庫・物流の論点は在庫・物流のテーマでまとめています。
よくある質問
スパゲティ図は誰が作ればよいですか
実際に運搬している作業者本人が描くと、記憶に頼らない実測の図になります。生産技術や保全の担当者が同席し、レイアウト図と時計を用意して記録すると、後で見直すときの条件(対象品目・時間帯・生産量)を残しやすくなります。
3定と5Sの違いは何ですか
5Sは整理・整頓・清掃・清潔・しつけという活動全体の枠組みで、3定はそのうち整頓を具体化する手法という位置づけです。3定を決めても清掃としつけが伴わなければ区画表示が守られなくなるため、両方を合わせて運用します。
運搬回数を減らす投資はどこから始めるべきですか
入出庫口の分離や動線の見直しは、既存の開口部や区画表示を活用できる場合は比較的小さな投資で着手できます(建屋改修・防火設備の変更を伴う場合は費用が変わります)。パレットやマテハン機器の標準化は初期費用がかかるため、動線分析で運搬回数・距離が最も大きい経路から優先順位をつけて検討します。
まとめ
- 運搬は付加価値を生まない作業。通路幅の確保と、フォークリフト等を用いる作業の作業計画・周知義務は、労働安全衛生規則の別々の規定。安全の前提を先に確認する
- 動線分析は「見える化」の一手法。運搬回数・距離・搬送量・待機時間を実測し、スパゲティ図で交差・往復の多い箇所を洗い出す
- 置き場は「定位置・定品・定量」の3定で決める。区画線は原則として通路幅の外側に引き、出荷頻度で保管場所を決める
- 運搬回数を減らす4つの手は、動線の一方向化、出荷順を想定した生産・荷造り、パレット・マテハン機器の標準化、搬入出の待機時間の可視化
- 効果は運搬回数・距離・移動時間を同条件で比較し、担当を決めてPDCAとして測り直す
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。