段取り替えの時間を記録して短くする進め方を整理します。
段取り替えの時間を短くする取り組みは、作業を「機械を止めないとできないもの」と「機械を止めずにできるもの」に分けることから始めます。前者を内段取り、後者を外段取りと呼びます。手を速く動かす前に、機械が止まっている時間そのものを減らすほうが先です。
多品種小ロット化(作る品種が増え、1回に作る数量が減ること)が進むと、1回あたりの時間が同じでも回数が増えるぶん、止まっている時間は積み上がります。ここでは、内段取りと外段取りの分け方、1回分を記録して分解する手順、改善に手を入れる順番、短くなった時間を金額に置き換える見方までを順に取り上げます。情報のもとにしたのは公的資料です。
分ける基準は「機械が止まっているか」だけ
内段取りと外段取りを分ける基準は一つだけです。その作業をしている間に、機械が止まっているかどうかで仕分けます。
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する中小企業向け情報サイトに、ビジネスQ&Aというコーナーがあります。中小企業基盤整備機構 J-Net21「ムダのない段取り改善の方法について教えてください。」(2026年8月時点)では、次のように説明されています。
←→ 横にスクロールできます
| 作業 | 説明 |
|---|---|
| 外段取り作業 | 機械を停止しないで機械の外で行う段取り作業 |
| 内段取り作業 | 機械を停止して行う段取り作業 |
金型や治具〈じぐ〉(加工物の位置決めや固定に使う器具)を機械の脇まで運ぶ、次の材料を台車に載せておく、加工条件表と図面を手元に出しておく——こうした作業が当てはまります。
次のような条件を確保できれば、機械が動いている間に行えます。
- 担当者
- 作業場所
- 安全
- 工具や材料の準備
現場では、この区別が入らないまま「段取りに30分かかる」と一括りに語られがちです。区別を入れると、減らせる部分と当面は減らせない部分が分かれます。
改善案を出す前に、1回分をそのまま記録する
前掲のビジネスQ&Aは、段取り改善を次の5つのステップで進めるものとして示しています。
- 段取り時間の現状把握
- 段取り作業の区分わけ
- お金のかからない改善
- 少しお金と時間がかかる改善
- お金と時間がかかる改善
順番を飛ばして治具や設備の話から入ると、費用をかけずに改善できる部分まで設備投資の対象にしてしまう可能性があります。
動画で残し、作業者と一緒に見る
ストップウォッチと紙だけでは、後から「なぜその動きが必要か」を確かめられません。作業者の手元と機械が同じ画面に入る位置にカメラを固定し、段取りの開始から最初の良品が出るまで撮ってください。撮ったものは本人と一緒に見て、動きの理由を聞き取ります。
作業要素に分けて4列の表にする
動画を見ながら、作業を10〜30秒程度の要素に分けて書き出します。表は次の4列で足ります。
←→ 横にスクロールできます
| 作業要素 | 内/外 | 所要時間 | 機械が止まる理由 |
|---|---|---|---|
| 金型を工具室から運ぶ | 内 | 4分 | 運搬中は機械が空いている |
| 取付ボルトを緩めて外す | 内 | 3分 | 機械を開けないとできない |
| 寸法を測って位置を調整する | 内 | 12分 | 試し打ちと測定を繰り返す |
| 次の材料を台車に載せる | 外 | 5分 | 機械は動いたままでよい |
表の数字は書き方を示す例です。自社の1回分を入れてください。作業がすべて直列に行われていれば、内に仕分けた行の合計がおおむね機械の停止時間になります。
複数人が並行して作業するときは、工数を単純には合計せず、止まってから再稼働するまでの経過時間を別に記録します。

手を入れる順番は4つ
仕分けた表を前に、次の順を基本として検討しましょう。必要な費用や、行う難しさは、次のような要素によって前後します。
- 設備
- 治具
- 生産条件
- 外へ出す:運搬・準備・後片付けなど、機械が動いている間にできる作業を外段取りへ移す
- 内のまま短くする:使う工具を1種類に揃える、締結箇所を減らす、置き場を手の届く位置に固定する
- 調整をなくす:測って直す作業をやめ、位置決めピンやストッパーで一度で決まる形にする
- 段取りそのものを減らす:同じ治具で流せる品目をまとめる、生産計画の並べ方を見直す
記録を取ったら、調整にかかっている時間とそのばらつきを確認しましょう。運搬や締結は所要時間が読めます。試し打ちと測定を繰り返す工程では、調整回数によって変動します。調整に長い時間を使っているときは、位置決め方法を見直して調整回数を減らすことが、短くする対策の候補になります。
「シングル段取り」は、段取り時間を一桁の分に収めることを目標として掲げる考え方です。一桁の分を目標にするときも、先に現状を記録し、外へ出せる作業を洗い出したうえで、実現できる目標を決めます。
短くなった時間を金額の物差しに載せる
改善を続けるには、削れた時間が何円分にあたるかを、誰が見ても同じ数字になる形にしておくと話が早くなります。
厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025年分結果確報」(2026年2月25日公表)によると、製造業(事業所規模5人以上・就業形態計)の実績は次のとおりです。
←→ 横にスクロールできます
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 1人平均月間現金給与総額 | 430,282円 |
| 1人平均月間総実労働時間 | 155.5時間 |
月間の給与総額を月間の労働時間で割ると、1時間あたりの賃金の目安になります。
これは全国平均から求めた概算で、含まれるのは賃金の部分だけです。法定福利費や、機械が止まっていたことによる機会損失は入っていません。自社データがない段階の参考値にしてください。投資を判断する段階では、対象になる作業者に合わせた自社の人件費データへ置き換えます。
減った作業時間に、人数と回数と時間あたり賃金を順に掛け合わせると、賃金換算した労働時間削減効果(円相当)になります。
段取りに関わる3人全員の作業時間が1回あたり30分減り、その機械で月40回段取りがあるとします。0.5時間 × 3人 × 40回 = 月60人時(人数と時間を掛け合わせた作業量の単位)です。これに2,770円を掛けると、月あたり約16.6万円、年約199万円の賃金換算値になります。
残業・人員・外注費が実際に減らない限り、この金額がそのまま現金支出の削減になるわけではありません。治具の新調に数十万円かかるときは、この賃金換算値を投資判断の材料の1つにできます。投資を判断するときは、次の点も併せて確認します。
- 導入・保全の費用
- 安全と品質への影響
- 効果が続く期間
- 残業を減らすことや増産につながるかどうか

段取り改善では、機械が止まっていた時間の短縮を中心に、作業工数、最初の良品が出るまでの時間、不良、安全への影響も併せて測る。
— 編集部による要約
費用のかかる改善に進む前に確認すること
通常は、現状把握と費用の小さい改善を行った後に、次のような対策を検討します。
- 治具の新調
- 型交換の自動化
- 設備更新
ただし、安全・法令・品質上の問題があるときは、必要な対策を優先します。ここまでの記録があれば、何分を何円で買うのかを説明できます。
経済産業省・厚生労働省・文部科学省は、2026年5月29日に2026年版ものづくり白書を公表しました(経済産業省「2026年版ものづくり白書」)。
同白書は、複数の工作機械の加工機能を1台に集約した工程集約型加工機について、次のように述べています。工程数を減らすことで製造ライン全体の自動化・省人化を進めやすくなり、製造業の人手不足対策として役立つ、という内容です。
同白書の概要では、収益力の高い企業は省力化・省人化投資などに積極的であり、日本の労働生産性は主要な国と比べて低い水準にあるとも述べています。工程集約によって工程間の切替えが減る設備構成では、段取り回数を減らすことにもつながる可能性があります。これは、同白書の工程数削減に関する記述を段取り改善の観点からまとめたものです。
費用の一部に、公的な支援制度を充てられるときもあります。中小企業省力化投資補助金 公式サイト(2026年8月時点)によると、次の2つの類型があります。
←→ 横にスクロールできます
| 類型 | 対象 |
|---|---|
| カタログ注文型 | カタログ掲載の汎用製品から選ぶ |
| 一般型 | 個別の現場に合わせた設備導入やシステム構築 |
次の項目は、類型や公募回によって異なります。
- 対象要件
- 補助率
- 上限額
- 公募期間
申請を検討する段階で、該当する類型の最新の公募要領を確認してください。
段取りの進め方が変わると、設備を止めて立ち上げるタイミングも変わります。契約電力はどう決まる?デマンド監視装置で工場の基本料金を下げる現場手順で扱っている見方は、生産性改善に伴って最大需要電力が上がる可能性がないかを確認する材料になります。
電気料金のうち現場で動かせない単価要因は再エネ賦課金と燃料費調整額。工場の電気料金明細を4つの項目で読むにまとめています。生産性まわりの論点は生産性・省人化のテーマ一覧にまとめました。
よくある質問
段取り時間はどこからどこまでを数えるのが適切ですか
社内で一本化されていれば比較はできます。使いやすいのは、前の品目の最後の良品ができた時点から、次の品目の最初の良品ができた時点までを数える方法です。調整と試し打ちを含む、良品生産の切替えにかかった経過時間を把握できます。
内段取りを外段取りに移すだけで時間は減りますか
外段取りを機械の稼働中に完了できれば、機械が止まっている間に行う作業を減らせます。ただし、次の条件を確保できることが前提です。
- 担当者
- 作業場所
- 工具・材料の準備
複数の作業を並行しているときは、外へ移した作業時間と同じだけ停止時間が短くなるとは限りません。作業そのものが消えるわけではないため、外段取りを担当できる人の手が空いていない工場では、人の配置も同時に見直します。前掲の5ステップでも区分わけの次にお金のかからない改善が置かれており、区分わけは出発点です。
段取り回数が多く、1回ずつ記録する余裕がありません
すべての品目を記録するのは難しいです。段取り回数や停止時間が多い機械を1台選び、条件の異なる代表品目から記録を始めます。ほかの品目へ展開するときは、治具・調整・検査条件の違いを改めて確認します。
まとめ
- 段取り作業は「その間に機械が止まっているか」で内段取りと外段取りに仕分ける
- 改善案より先に1回分を動画で記録し、作業要素・内/外・所要時間・止まる理由の4列に分解する
- 手は「外へ出す→内のまま短くする→調整をなくす→段取りそのものを減らす」の順に入れる
- 短くなった時間は時間当たり賃金で換算し、現金支出の削減とは区別したうえで次の判断につなげる
- 費用のかかる改善は後に回す(安全・法令・品質の問題があるときは先に対策する)。公的な支援制度は要件が類型・公募回で変わるため公募要領で確認する
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。