ABC分析は在庫を減らすための手法ではなく、限られた管理の手間をどの品目へ厚く置くかを決めるための手法です。進め方は三つに分かれます。分ける対象の在庫を決める、金額と停止影響の二つの軸で分類する、ランクごとに発注と棚卸しのやり方を変える。この順で進めます。
順番を逆にして「まずCランクを減らす」から入ると、金額の小さい保全部品まで薄くしてしまい、欠品による停止で削減額を上回る損失が出ることがあります。
数値は2026年8月時点で公表されているものです。
まず「どの在庫を分けるのか」を決める
工場の在庫は一つの塊ではありません。財務省「四半期別法人企業統計調査(2026年1〜3月期)」(2026年6月1日公表)によると、全産業(金融業、保険業を除く)の棚卸資産163兆6,753億円の内訳は、製品又は商品86兆5,896億円、仕掛品45兆5,544億円、原材料・貯蔵品31兆5,313億円です。
構成比にすると製品・商品が約53%、仕掛品が約28%、原材料・貯蔵品が約19%になります。三つは有効な打ち手が異なるため、区分を分けずに同じ表で分類すると、分類後の打ち手を決めにくくなります。
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| 区分 | 効く打ち手 | 主に関わる部署 |
|---|---|---|
| 原材料・貯蔵品 | 発注量・発注時期・最小ロットの見直し | 購買、資材 |
| 仕掛品 | 生産ロットの大きさ、工程間の滞留時間 | 生産管理、製造 |
| 製品 | 需要予測、受注の取り方、出荷計画 | 営業、生産管理 |
着手しやすいのは原材料・購入部品です。発注量と発注時期を自分たちで決められるため、分類結果を発注量や発注時期を見直す判断材料にしやすくなります。仕掛品と製品は、原因が生産計画や受注の取り方にあることが多くなります。
規模の目安として、財務省「年次別法人企業統計調査(令和6年度)」(2025年9月1日公表)では、2024年度の在庫率(期末の棚卸資産÷売上高×100)は、全産業(金融業、保険業を除く)で9.6%でした。参考計算として年間売上高10億円の企業にこの全産業平均を機械的に当てはめると、期末の棚卸資産は約9,600万円になります。製造業や個別の工場の標準値ではありません。
分類の基準は金額だけで決めない
製造業の在庫でABC分析を使うときは、年間使用金額(単価×年間払出数)などの指標が大きい順に品目を並べ、累積構成比で区切る方法があります。区切りの位置に制度上の決まりはありません。独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21「すぐに使える/小売店のABC分析表」では、累計シェアの上位50%までをA、50〜80%をB、それ以外をCとしています。実務例や解説記事では、70%と90%を区切りとする例も見られます。
数字そのものより、自社でどこに線を引いたかを決めて残しておくことが効きます。区切りを変更するときは、変更前後の基準と対象期間を記録し、前年との比較条件が分かるようにします。
金額だけで分けると、金額は小さいのに欠品すると生産が止まる品目が落ちます。もう一つの軸に、想定停止時間や生産への影響、代替品の有無などから見た「欠品時の停止影響」を置き、二軸で見ます。
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| 軸 | 見る数字 | データの出どころ | 分類への使い方 |
|---|---|---|---|
| 金額 | 年間使用金額(単価×年間払出数) | 購買データ、出庫記録 | 累積構成比でA・B・Cに区切る |
| 停止影響 | 欠品したときの想定停止時間 | 保全記録、生産管理 | 大きい品目は金額に関わらずA相当へ |
| 調達 | 発注から入荷までの日数、最小ロット | 発注実績、仕入先への確認 | 安全在庫と発注点の前提にする |
| 動き | 最終払出日、年間の払出回数 | 出庫記録 | 動きのない品目を別枠に |

ランクごとに管理方式を変える
分類の目的は管理方式を変えることにあります。全品目へ同じ発注ルールと同じ棚卸し頻度を当てると、品目数の多いCランクに手間を取られ、金額の大きいAランクの確認に十分な時間を割けないことがあります。
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| ランク | 発注の考え方 | 在庫の持ち方 | 人の手のかけ方 |
|---|---|---|---|
| A | 使用量と納期を見て個別に判断 | 安全在庫を明示し、発注点を設定 | 担当を決めて残数を定期確認 |
| B | 需要・調達が安定していれば発注点方式や自動化を検討 | 発注点と発注量を決め置き | 例外が出たときだけ見直す |
| C | まとめ発注・都度発注で手間を減らす | 置き場を固定し、目視で分かる量に | 切らさないことを優先しつつ数量は正確に |
Cランクは一律に減らす対象ではなく、必要な数量精度を保ちながら管理の手間を抑える対象です。単価の低い消耗品を月に何度も発注すると、発注・受入・検収にかかる事務コストが、発注頻度を細かく管理することで得られる在庫削減効果を上回ることがあります。逆に、金額が小さくても欠品で設備が止まる保全部品は別枠で管理し、対象は保全記録の停止時間を見ながら保全担当と選びます。
在庫の保管や構内外の運搬にも費用が生じます。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「2025年度物流コスト調査報告書(概要版)」(2026年4月30日公表・有効回答205社)では、売上高物流コスト比率の全業種平均は5.32%でした。この数値は物流コスト全体の比率であり、在庫の保管費だけを示すものではありません。
倉庫の照明や空調の電気代の見方は再エネ賦課金と燃料費調整額。工場の電気料金明細を4つの項目で読むで、置き場と運搬を含む論点は在庫・物流のテーマで扱っています。
棚卸しは全品目を同じ頻度で数えない
ランク分けは、棚卸しの頻度や確認方法の見直しにも使えます。国税庁の法人税基本通達5-4-1(棚卸しの手続)は、棚卸資産について各事業年度終了の時に実地棚卸しをしなければならないとしています。
そのうえで、法人がその業種、業態及び棚卸資産の性質等に応じ、実地棚卸しに代えて部分計画棚卸しその他合理的な方法により期末の在高等を算定している場合には、継続適用を条件にこれを認めるとしています。
期末に一斉に数える方法だけが認められているわけではない、ということです。ただし継続適用が条件のため、合理的な理由なく年ごとに方法を変える運用は避けます。
以下は運用例です。通達が定めた頻度ではありません。品目の性質、移動量、過去の棚卸差異なども踏まえ、期末の在高を合理的に算定できる頻度を設定します。
- Aランク:毎月数え、差異が出たら当月中に原因まで確認する
- Bランク:四半期ごとに数え、差異の傾向を見る
- Cランク:年1回にまとめ、置き場単位で数える

差異が出たときに誰が何をするかまで決めます。毎月同じ担当者が同じ表を見る点は、電気の契約電力を下げる手順と共通します(契約電力はどう決まる?デマンド監視装置で工場の基本料金を下げる現場手順)。
分類した後に起きやすい三つの型
一つ目は、Cランクを一律に減らして欠品を招く型です。停止影響を見ないと、止まったときの損失が計算に入りません。
二つ目は、動かない在庫を「評価損で落とせる」前提で処分計画を立てる型です。法人税法第33条第2項は、政令で定める事実によって資産の価額が帳簿価額を下回り、評価換えをして損金経理により帳簿価額を減額した場合に、その減額部分の損金算入を認めています。棚卸資産について法人税法施行令第68条第1項第1号が挙げる事実は、災害による著しい損傷、著しい陳腐化、これらに準ずる特別の事実の三つです。
国税庁の法人税基本通達9-1-5は、破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことを「準ずる特別の事実」に含めています。一方で同9-1-6は、単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情で時価が低下しただけでは該当しないとしています。
滞留した期間の長さだけで可否は決まりません。上記の事実があり、それによって価額が帳簿価額を下回っているかを個別に確認します。処分するか持ち続けるかは、税務上の扱いを確認したうえで決めます。
三つ目は、分類が一度きりで止まる型です。年1回の見直しを出発点にし、使用量や調達日数が大きく変われば予定を待たずに更新します。分類表に更新日と使った期間を残すと、次の担当が同じ条件で比べられます。
よくある質問
A・B・Cは何パーセントで区切ればよいですか
制度で決まった区切りはありません。中小企業基盤整備機構の公開資料では上位50%までをA、50〜80%をBとする例が示され、実務例や解説記事では70%と90%を区切りとする例も見られます。品目数と管理に割ける人手で決め、基準を文書に残します。
金額の小さい保全部品はCランクでよいですか
年間使用金額の軸ではCに分類される場合がありますが、欠品時に設備が止まる品目は停止影響の軸で別枠にします。判断材料は、保全記録に残る停止時間と、部品の調達日数、代替品の有無です。
棚卸しの回数を減らしても問題ありませんか
法人税基本通達5-4-1は、実地棚卸しに代えて部分計画棚卸しその他合理的な方法で期末の在高等を算定する場合、継続適用を条件に認めるとしています。合理的といえるかは個別判断のため、顧問税理士等へ確認してから運用を変えます。
まとめ
- 製品・仕掛品・原材料のどれを分類の対象にするかを先に決める。着手しやすいのは原材料・購入部品
- 金額の累積構成比と欠品時の停止影響の二軸で分ける。区切りの位置は自社で決めて記録に残す
- ランクごとに発注方式・置き場・手のかけ方を変える。Cランクは一律に減らす対象ではなく、数量精度を保ちながら手間を抑える対象
- 棚卸しの頻度を分ける運用は、継続適用の条件を含めて税理士等へ確認してから変える
- 評価損には事実関係の要件があり、滞留した期間の長さだけでは判断できない
編集確認
株式会社恒電社 編集部
製造業の電気設備・自家消費型太陽光の現場に携わる立場から、実務上の誤解を招かないかを確認しています。