品質コストとは、不良を防ぎ、検査し、それでも出てしまった不良に対応するためにかかる費用の総称です。工場ではこの費用が材料費や労務費、外注費といった既存の科目に含まれ、品質関連費用として区分集計されていない場合があります。本記事では、品質コストを予防・評価・内部失敗・外部失敗の4つに分けて捉える考え方、既存の記録から自社の数字を拾う方法、そして予防にどこまで配分するかを判断する順序を整理します。
品質管理の専任部署を持たない中小規模の工場でも取り組めるよう、検査・手直し・クレーム対応にかかる時間や費用を、担当者の感覚ではなく数字として見える形にする方法を整理します。
品質コストは「予防・評価・失敗」の4つで考える
品質にかかる費用を整理する考え方の一つに、「予防コスト」「評価コスト」「失敗コスト」の3つに分け、失敗コストをさらに「内部失敗コスト」と「外部失敗コスト」に分ける整理があります。不良を未然に防ぐための費用(予防)、不良の有無を確かめるための費用(評価)、出てしまった不良に対応する費用(失敗)という順に並べると理解しやすくなります。
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| 区分 | 内容 | 工場でよくある費目 | 現場での例 |
|---|---|---|---|
| 予防コスト | 不良の発生を未然に防ぐための費用 | 教育訓練費、作業標準書の整備費、品質不良の予防に関係する範囲の設備保全費 | 作業手順書の改訂、検査担当への教育 |
| 評価コスト | 不良の有無を確かめるための費用 | 検査要員の人件費、検査設備の維持費 | 受入検査、工程内検査、出荷前検査 |
| 内部失敗コスト | 出荷前に社内で見つかった不良への対応費用 | 手直し工数、廃却材料費、再検査費 | 手直し、スクラップ、再加工 |
| 外部失敗コスト | 出荷後・納品後に発覚した不良への対応費用 | クレーム対応費、返品・回収費、代替品の再製作費 | 返品対応、取引先への説明、信用回復にかかる時間 |

自社の数字は既存の記録から拾う
必ずしも新しい勘定科目を設ける必要はなく、既存科目の内訳から拾う方法もあります。中小企業実態基本調査(中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構、政府統計の総合窓口e-Stat)の統計表では、製造業の売上原価は商品仕入原価・材料費・労務費・外注費・減価償却費・その他の売上原価に、営業費用は給料賃金・地代家賃・水道光熱費・従業員教育費・その他の経費などに区分されています。品質関連費用がこれらの科目に含まれている場合があります。
- 材料費(売上原価):不良品として廃却した材料費、規格外品を値引きして処分した際の差額
- 労務費(売上原価):検査要員の人件費、手直し作業にかかった工数
- 外注費(売上原価):外注先への品質管理指導にかかる費用、外注不良の手直しを委託した費用
- その他の売上原価・営業費用(従業員教育費、その他の経費など):クレーム対応にかかる費用、返品時の送料、教育訓練費
検査にかかる費用も同様の考え方で拾えます。中小機構のJ-Net21「不良品を出さないための工程管理方法について教えてください」では、全数検査はコストの増加につながるため、工程の数値を記録し、統計的な管理図で異常を早期に見つける方法が紹介されています。検査要員の人件費や設備維持費を洗い出す際は、全数検査と抜取検査への人員・時間配分をあわせて確認すると、評価コストの内訳が見えてきます。

比率ではなく「失敗コストの内訳」を見る
品質コストの分類を紹介する資料には、予防コストと失敗コストの比率の目安が示されることもありますが、その目安の根拠となる公的な統計は確認できませんでした。比率の目安を追うより、まず自社の失敗コストの内訳を数字で並べることを優先してください。
内部失敗コストと外部失敗コストを分けて並べると、どちらに費用が偏っているかが見えます。内部失敗は社内で完結する分、対応範囲を把握しやすい一方、外部失敗は取引先への説明や代替品の再製作など、関係する部署や時間が広がりやすい傾向があります。
予防への配分は「どこで失敗しているか」から決める
失敗コストの内訳が見えたら、次に予防コストをどこへ配分するかを判断します。判断の軸になるのは、失敗の発生源です。
- 社内工程が原因の内部失敗が多い場合:作業標準書の整備や、品質不良の予防に関係する範囲の設備保全に予防コストを配分する。検査基準・検査方法の設計見直しも予防コストだが、検査を実施する費用そのものは評価コストとして別に管理する
- 外注先が原因の不良が多い場合:外注先の品質管理指導に配分する
- 出荷後の外部失敗が多い場合:出荷前の検査体制と、設計・仕様の見直しの両方を検討する
外注先が原因の不良が多い場合は、中小機構のJ-Net21「外注先に対する品質管理指導の進め方について教えてください」の考え方が参考になります。外注先の品質管理を自社の品質管理の一部と位置づけ、チェックリストで実態を把握したうえで、検査基準・作業標準書といった「基準」と、検査成績書・作業報告書といった「事実」の記録を指導する進め方です。
不良が見つかったときにその場で手直しするだけで終えず、原因を取り除いて再発を防ぐという考え方は、品質マネジメントシステムの要求事項を定めるJIS Q 9001:2015にも表れています。同規格は、不適合(要求事項を満たさない状態)が見つかった場合の是正処置について、再発または他の箇所での発生を防ぐための取り組みを求めています(箇条10.2)。予防コストの配分先を決める際は、「今回の不良を直す」費用と、「同じ不良を繰り返さない」費用を分けて考えると整理しやすくなります。組織の持続的な成功のための指針を示すJIS Q 9004:2018も、改善活動はコスト・時間・エネルギー及び無駄の削減などの便益をもたらし得るとしています(箇条11.2)。品質コストを一度だけ集計して終えるのではなく、継続的に数字を確認する運用も、予防コストの検討対象になります。
歩留まり・不良率の記事とのつながり
品質コストは、歩留まりや不良率の改善と切り離して考えるものではありません。歩留まりは投入した材料や工数に対してどれだけ良品が得られたかを表す指標であり、不良率は検査数や生産数に対する不良の発生割合を表す指標です(工程ごとに層別して集計すると、どの工程で発生しているかが見えてきます)。品質コストは、予防・評価・失敗にかかる費用を金額で整理する枠組みだと位置づけられます。歩留まり・不良率・品質コストを別々に管理していると、どれも「悪化した」ことは分かっても、どれから手を付けるべきかの優先順位が付けにくくなります。
歩留まりの改善から着手する場合は、歩留まり改善の進め方で扱っているロスの分解と条件管理の手順が、内部失敗コストの材料費部分を減らす検討の手掛かりになります。不良の発生原因を工程までさかのぼって特定したい場合は、不良率を下げる原因分析の手順で扱っている層別・工程能力・なぜなぜ分析が、失敗コストの発生源を分析する方法として使えます。品質コストの4分類は、この2つの記事で扱う改善活動を、金額という共通のものさしに乗せるための枠組みとして使えます。品質・歩留まりのテーマページでは、このほかの関連記事もあわせて確認できます。
よくある質問
Q. 内部失敗コストと外部失敗コストは、何が一番違いますか
A. 不良が見つかる場所です。出荷前・社内で見つかれば内部失敗コスト、出荷後・納品後なら外部失敗コストに分類します。外部失敗コストには、返品・回収の費用に加え、取引先への説明や信用回復にかかる時間も含めて考える必要があります。
Q. 評価コストを減らすと品質は下がりませんか
A. 評価コストを一律に減らすことと、検査の方法を見直すことは別の話です。中小機構のJ-Net21では、全数検査はコストの増加につながるため、工程の数値を記録し統計的な管理図で異常を早期に見つける方法が紹介されています。ただし、顧客仕様・契約・法令や規格で検査方法が指定されている場合はそれを満たす必要があり、管理図による工程監視が全数検査をそのまま代替できるとは限りません。
Q. 品質管理の専任者がいない工場でも品質コストは把握できますか
A. 既存の記録に必要な内訳が残っていれば、専任者がいない場合でも集計に着手できます。新しい集計の仕組みを最初から作るのではなく、既存の材料費・労務費・外注費・その他の経費の中から、手直しや廃却、クレーム対応にあたる費用を月次で拾い出すところから始められます。担当は経理と現場で分担する方法も考えられます。まずは把握できる範囲の月次実績を並べ、内訳の傾向を確認することを優先してください。
まとめ
- 品質コストは、予防・評価・内部失敗・外部失敗の4分類で整理すると、費用の所在が見えやすくなる
- 新しい帳簿を作らなくても、既存記録に必要な内訳が残っていれば、材料費・労務費・外注費・その他経費の中から品質コストを拾い出せる
- 比率の目安を追うより、まず失敗コストの内訳(内部か外部か、どの工程か)を数字で並べる
- 予防コストの配分先は、失敗の発生源(社内工程・外注先・出荷後)から判断する
- 歩留まり改善・不良率の原因分析と組み合わせることで、品質コストは改善活動を金額で評価するものさしになる
編集確認
株式会社恒電社 編集部
製造業の電気設備・自家消費型太陽光の現場に携わる立場から、実務上の誤解を招かないかを確認しています。