限度見本〈げんどみほん〉とは、キズや色ムラのように数値だけでは合否を共有しにくい項目について、判定の境目を現物で示した見本です。人の目で行う外観検査で使います。
自社に必要かどうかは、検査基準書が手掛かりになります。「キズがないこと」「著しい変色がないこと」のように言葉だけの基準が残っていれば、合否の線は検査員の解釈に左右されうる状態です。
作り方は対象項目を絞る、境界の候補を集める、複数人で合議する、承認して記録するの4段階に整理できます。作ったあとは保管と更新のルールを決めます。取引先と共有する場合に関わってくるのが、取適法という法律です。順に見ていきます。
境界付近の見本を対にすると判定を共有しやすい
限度見本を合格の限界の1点だけで運用する設計もあります。ただし、合格側と不合格側の状態を対にして示すと、どちら側を合格とするかが伝わりやすくなります。
現場で使われる見本は、役割で3つに分かれます。ねらいの状態を示す標準見本、これ以上悪いと不合格になる限界を示す限度見本、明らかな不合格を示す不良見本です。合格限度の見本に、その限度をわずかに超えた不合格側の見本を対にすると、境目を共有しやすくなります。

対象になるのは、数値の基準だけでは合否を一意に決めにくい外観の項目です。キズ、打痕、色ムラ、光沢の差、バリ、印刷のかすれ、溶接ビードの見え方などが該当します。
数値基準だけで合否を判定できる項目では、見本を設けない運用もできます。併用するなら、どちらを優先するかを決めておきます。
作り方を4段階に整理する。対象を絞ってから候補を集める
手順は次の4段階です。全項目を一度に作ろうとすると、作業が進みにくくなります。
- 対象項目を絞る:不良の記録を見て、件数が多い項目と、担当者によって判定が割れた項目を選びます。まず1〜2項目から始めます。
- 境界の候補を集める:量産品の中から、明らかな良品、明らかな不良、迷う品の3種類を集めます。迷う品が候補になります。
- 複数人で合議する:検査担当と品質保証など、立場の違う複数人で同じ品を判定します。判定が割れた品について、照明・観察距離・見る位置などの条件をそろえたうえで、境界候補として検討します。
- 承認して記録する:どの品を限度見本にしたか、誰が承認したか、いつから適用するかを書き残します。

3段階目を1人で決めると、その人の感覚がそのまま基準になります。割れなかった場合も、新任者や別拠点、取引先との共有に必要かを確認します。
なお、不良の記録から対象項目を選ぶ流れは、不良率を下げる進め方と同じ入口です。層別のしかたは不良率はどう下げる?層別・工程能力・なぜなぜ分析で原因をたどる手順で整理しています。
現物に付ける情報と、保管のしかた
限度見本は現物なので、時間とともに変わります。退色、サビ、汚れ、割れは、示している境目をずらす原因です。
そこで、現物と管理台帳の両方に情報を持たせます。ここでは次の項目を推奨します。
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| 持たせる情報 | 何のために要るか |
|---|---|
| 管理番号・対象部品名 | どの部品のどの工程で使う見本かを特定する |
| 判定項目 | キズなのか色ムラなのか、見る対象を1点に限定する |
| 作成日・適用開始日 | いつから適用した基準かをさかのぼれるようにする |
| 有効期限・次回確認日 | 劣化した見本を使い続けることを防ぐ |
| 保管場所 | 検査工程で必要なときに手元にある状態を保つ |
| 承認者 | 誰が決めた基準かを明らかにする |
現物への表示は、ラベルを貼るか、袋やケースに入れて外側に書きます。判定面に直接書き込むと、その部分が見えません。
保管の考え方は、国の取引ガイドラインにも例があります。
迅速な検収を行うとともに、担当者による検収のばらつきをなくすために、社内で検収マニュアルや限度見本を作成するとともに、社内教育を徹底して行っている。さらに限度見本等は汚れや傷により変化が生じないように管理をきちんと行っている。
— 経済産業省「自動車産業適正取引ガイドライン」(令和7年12月最終改訂)のベストプラクティス例
取引先と共有するときに関わる法律
取適法の対象となる製造委託等で限度見本を取引先と共有する場合は、同法と運用基準の確認が要ります。取適法は中小受託取引適正化法の略称で、対象となる委託取引について、代金支払の遅延や不当な受領拒否・返品などを規制する法律です。2026年1月1日に、それまでの下請法を改正・改称する形で施行されました。
取適法は第4条第1項で、製造委託等をした場合に直ちに給付の内容などを明示することを委託事業者に求めています。公正取引委員会の運用基準は、この給付の内容について、品目、品種、数量、規格、仕様等を明示する必要があるとしています。
合否の線が曖昧なまま委託すると、納品時の受領拒否や、受領後の返品・やり直しが認められない場合があります。委託内容の明示が足りず、あるいは検査基準が明確でないために、給付が委託内容と異なることが明らかでない場合があります。運用基準は、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないこの状況で、それを理由に受領を拒むことも返品することも認めていません。
基準をあとから動かす行為も同じです。責めに帰すべき理由がないのに、検査基準を恣意的に厳しくして委託内容と異なるものとして扱うことは、受領拒否と返品の禁止に関わります。やり直しについては、中小受託事業者の利益を不当に害する場合に禁止行為へ該当し得ます。
運用基準は違反行為の例も挙げています。いったん受領したあとに、以前は問題にしていなかった色むらを指摘して引き取らせた事例です。
誰が決めるかについては、国のガイドラインに実例があります。自動車産業適正取引ガイドラインは、受入れの検収基準や限度見本の作成にあたり、発注側と受注側の双方の品質管理担当が直接協議して決めている例を挙げています。片方だけで決めるのではなく双方で協議する、運用の参考例です。
取引条件の期日まわりは下請法の支払期日は?受領日から60日の数え方と、取適法で変わった手形払いで扱っています。
更新でつまずきやすいところ
更新の場面では次の問題が起きやすくなります。
- 改訂をさかのぼって適用する:過去に受け入れた品まで新しい基準で不合格にすると、あとから恣意的に厳しくしたと評価されるおそれがあります。
- 旧版を回収しない:新旧が現場に併存すると、どちらで判定したか分からなくなります。差し替えと回収は原則として同時に行います。
- 有効期限を決めていない:退色やサビが進んだ見本は、実際より甘い側にも厳しい側にも判定をずらすおそれがあります。
- 写真だけで代用する:照明と角度で見え方が変わるため、現物と併用する前提で使います。
- 1点しか作らない:受入検査と最終検査で同時に使うなら、各場所で参照できる数か仕組みが要ります。
改訂の遡及は、従前の委託内容との関係や改訂の合意状況によって評価が分かれます。適用開始日と対象ロットは、当事者間で明確にしておくべき事項です。
更新の記録は、不具合対策書の恒久処置として残る場合もあります。処置の書き分けは不具合対策書はどう書く?暫定処置と恒久処置を分けて、なぜなぜの結果を原因欄に置く手順で整理しています。品質テーマの記事は品質・歩留まりのテーマページにまとめています。
窓口は、社内なら品質保証と検査担当、社外との取り決めなら購買と取引先の品質管理担当です。
よくある質問
限度見本は写真やデータでも代用できますか
写真や拡大画像は、離れた拠点や取引先と同じ像を共有するのに向いています。ただし照明、角度、モニターの設定で見え方が変わります。観察条件と表示条件を管理できないなら、現物を正として写真を補助に置きます。
限度見本を作れば、不合格品を返品できますか
限度見本があるだけで返品が認められるわけではありません。取適法の対象取引では、中小受託事業者の責めに帰すべき理由があるか、給付が委託内容と異なることが明らかか、検査を適切に行ったかを確認する必要があります。
公正取引委員会の運用基準は、検査を省略した場合や、自社で検査せず中小受託事業者へ文書で委任もしていない場合の返品を認めていません。
期間の経過にも制限があります。直ちに発見できない不適合を理由とする返品は、受領後6か月を経過すると認められません。一般消費者に6か月を超える保証期間を定めている場合、返品が認められなくなる時点は最長で受領後1年です。
やり直しは別の整理です。直ちに発見できない不適合であっても、受領後1年を経過した場合は認められないとされています。いずれの期間も、内側であれば当然に返品ややり直しが認められるという意味ではありません。
取引先から渡された限度見本が、いまの実物と合わなくなったときは
自社の判断で読み替えず、渡した側へ差し替えを申し入れます。少なくとも受領拒否について、運用基準は、受注側が確認を求めて発注側が了承した内容で製造した場合に、あとから委託内容と異なるとすることを認めていません。合意した記録を残しておくと、判断の根拠になります。
まとめ
- 限度見本は、数値だけでは合否を共有しにくい項目の境目を現物で示すものです。合格側と不合格側を対にすると境目が伝わります。
- 作り方は、対象項目を絞る、境界の候補を集める、複数人で合議する、承認して記録するの4段階に整理しました。判定が割れた品は、条件をそろえたうえで候補にします。
- 現物と台帳に、管理番号、判定項目、適用開始日、有効期限、保管場所、承認者を持たせます。劣化した見本は判定をずらすおそれがあります。
- 取適法は給付内容等の明示を求めています。責めに帰すべき理由がないのに、検査基準が不明確なまま、あるいは基準を恣意的に厳しくして受領拒否や返品をすることを、運用基準は認めていません。やり直しは、中小受託事業者の利益を不当に害する場合に禁止行為へ該当し得ます。
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株式会社恒電社 編集部
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