射出成形の条件表は、成形機の設定値を写すだけの帳票ではありません。品番・材料・金型・成形機を特定し、条件を変えた理由と変更前後の値、試打後の良否を一緒に残す記録です。
作るときは、識別、基準条件、変更履歴、品質確認、承認・引継ぎの5つに分けます。変更1件を1行にまとめると、どの操作がどの結果につながったかを後から追えます。
射出成形は、樹脂を加熱して金型へ射出し、冷やして形を作る加工です。同じ品番でも材料、金型、設備が違えば条件の意味が変わるため、条件表は対象の組み合わせごとに管理します。
条件表は5つのブロックに分ける
条件表の役割は、良品を作った状態と、その状態を変えた経緯を再現できる形にすることです。設定欄だけを増やすより、5つのブロックに分けると記入漏れを見つけやすくなります。
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| ブロック | 主な記録項目 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 識別 | 品番、材料、金型、成形機、日付 | 比較する記録を絞る |
| 基準条件 | 温度、速度、圧力、時間、位置 | 良品時の出発点を確認する |
| 変更履歴 | 変更前、理由、変更後、変更者 | 試打の順序を追う |
| 品質確認 | 外観、重量、寸法、充填時間など | 変更後の影響を比べる |
| 承認・引継ぎ | 判定、確認者、保存先、版 | 量産条件へ反映する |
この5区分は、原典の作業順を条件表へ落とし込んだ記事独自の整理です。法令で定められた共通様式ではないため、工場の検査規格や設備の項目名に合わせて欄を入れ替えます。
1枚に収まらない場合は、基準条件と変更履歴を別の表にしても構いません。その場合は、品番、金型番号、条件表の版、試打番号を両方へ記録します。同じ番号で結び付けば、設定値と結果を往復して確認できます。
条件表の先頭には、適用中か試打中かも表示します。状態が無いと、検討途中の値を量産条件として読むおそれがあるためです。採用の判断が終わるまでは、試打品と量産品の記録を分けます。

基準条件は「何を使ったか」から記録する
数値を比べる前に、製品・材料・金型・成形機の組み合わせを固定します。組み合わせが違う記録を同じ表で比べると、条件変更の影響と設備や材料の違いが混ざるためです。
識別欄で比較対象をそろえる
識別欄には、品番、材料名とロット、乾燥条件、金型番号、成形機番号、取数、記録日時を置きます。再生材の配合や着色剤を管理している場合は、その識別情報も同じ欄に含めます。
担当者名だけでは、夜勤から日勤へ替わった後に経緯を追えません。いつ、どの設備で、どの材料を使った記録かが先に読める並びにします。
材料名が同じでも、ロットや乾燥の履歴が違えば比較条件はそろいません。金型は番号だけでなく、改修後であれば版や改修日も識別します。短い識別欄が比較の入口です。
成形機の号機は必須です。別の号機へ条件を移す場合は、画面上の項目名、単位、制御方法の違いを確認します。元の号機の値をそのまま上書きせず、移管時の試打として別の履歴を作ります。
設定値は工程ごとに単位を付ける
設定値は、可塑化、射出・保圧、金型温調・冷却のまとまりで並べます。シリンダー温度と金型温度は℃、射出速度は設備が表示する単位、圧力はMPaなど、画面と同じ単位が必要です。
単位を省くと、別の成形機へ移したときに数値だけが残ります。設備ごとに表示方法が違う場合は、換算値を上書きせず、元の表示値と換算方法を分けて残します。
設定画面を画像で保存する場合も、条件表の項目名と対応させます。画像だけでは変更箇所を検索しにくく、表だけでは段数や画面構成を読み違える場合があるためです。表の版と画像の保存名を同じ番号で結びます。
基準条件には、採用時の値と許容する変更範囲を分けて書きます。範囲を設けていない項目へ、推測した上下限を足してはいけません。未設定なら未設定と記録し、担当者が別途決めます。
実測値と品質結果を設定値の横に置く
高齢・障害・求職者雇用支援機構の射出成形の不良対策に関する訓練モデルは、温度・圧力・流量などの測定と、不良要因の推定を扱っています。
そのため条件表には、設定値に加えて、充填時間、圧力、クッション量や残量、製品重量、外観などを置きます。項目は設備と製品規格に合わせ、設定した値と、実際に確認した結果を分けて記録します。
クッション量・残量は、使用設備の取扱説明書で表示値の定義、単位、確認時点を確かめ、その定義に沿って記録する項目です。設備に該当表示がなければ無理に欄を作らず、自社で実際に測れる項目だけを使います。
条件変更は前後の値と理由を1行で追う
条件を変えるたびに、変更前、変更理由、変更後、試打番号、確認結果を同じ行へ記録します。最新値だけを上書きすると、良品へ至った順序と、元へ戻すための値が消えます。
- 変更前:現在の設定値と直前の品質結果を転記する
- 変更理由:ショート、バリ、重量変化など、確認した現象を書く
- 変更後:変更項目、値、変更時刻、試打番号を残す
- 良否確認:外観、重量、寸法、設備データの結果を書く
- 保存:採用・不採用と、次の基準条件への反映先を決める
一度に複数の項目を変えた場合も、行を分けて事実と異なる履歴を作りません。変更した項目を一組として残し、その結果だけでは各項目の影響を分離できないことを記します。
変更幅や試打数に、すべての材料と金型へ共通する値はありません。現行の作業標準、材料メーカーの技術資料、金型と設備の制約を照合し、変更できる範囲を先に定めます。
試打品には、条件表と同じ試打番号を付けます。最初の数個だけを見て判断せず、社内規格で定めた採取時点と個数を記録します。採取の条件が分かれば、後から同じ位置の製品を比較できます。
元へ戻した操作も変更履歴です。復帰後の値と品質結果まで書けば、単に「不採用」とした理由が残ります。戻した時刻も必要です。

良否判定は変更した箇所以外も確認する
条件変更後は、狙った不良が減ったかに加え、新しい不良が出ていないかを確認します。ある不良を直す操作が、別の位置のバリや外観変化につながる場合があるためです。
高齢・障害・求職者雇用支援機構のOJT支援ツールの作業標準書例(p.97)は、外観見本との比較、製品重量、変更理由の伝達、良品判定を行った後に、変更条件を成形条件表へ記録する流れを示しています。
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| 確認欄 | 記録する内容 | 判定後の扱い |
|---|---|---|
| 狙った現象 | 発生位置、個数、程度 | 変更前と同じ基準で比較 |
| 新しい変化 | 別の外観不良、バリ、重量や寸法の変化 | 採用前に影響を確認 |
| 設備データ | 充填時間、圧力、残量など | 試打番号と結び付ける |
| 最終判定 | 採用、不採用、追加確認 | 確認者と時刻を記録 |
外観の境界を担当者ごとに変えないため、比較方法を先に決めます。境界見本を使う場合は、作り方と更新方法を限度見本の作り方で確認できます。
重量や寸法を使う場合は、測定器の識別番号と測定時刻も残します。測定器の状態が不明だと、成形条件による差と測定による差を切り分けにくくなるためです。対象と周期の決め方は測定器の校正管理で確認できます。
判定欄は、合格と不合格だけで終わらせません。追加確認、条件を戻す、金型や材料を調べるなど、次の処置も選べるようにします。誰が次に動くかまで書けば、試打後の放置を防げます。
採用条件は版を付けて量産へ引き継ぐ
採用した条件は、試打のメモから量産用の基準条件へ移し、版番号と適用開始日時を付けます。旧版を消さず、どの製造ロットから新しい条件を使ったかを追えるようにします。
情報処理推進機構の射出成形企業のDX事例では、作業者が変更できる範囲を管理し、変更理由と品質への影響を管理者が確認する運用を紹介しています。一社の運用例であり、条件表に確認者、判断、時刻を残す考え方の参考です。
不採用条件も履歴として残します。どの現象に対して何を変え、どの結果で戻したかが分かれば、同じ試行の繰り返しを避けられます。異常が続く場合の次の作業は、原因と対策を不具合対策書へつなぐ手順の確認です。
量産後の変化は、条件表とは別に時系列で監視します。点の並び方から変化を読む方法は管理図の異常判定で整理しています。条件表は変更の履歴、管理図は量産中の変化を見るための記録です。
条件表の項目を見直すときは、品質、製造、設備の担当者が同じ版を確認します。各担当が別々の表を持つ場合は、正式な基準条件と変更履歴の保存先を一つに決めることが先です。
紙、表計算、専用システムのどれを使うかは、記録の目的とは別の判断です。選ぶときは、変更履歴を消さないこと、閲覧できる版を間違えないこと、設備停止時にも確認できることを確かめます。媒体より更新方法を先に決めます。
電子化する場合は、編集できる人と閲覧だけの人を分けます。変更後は古い版を削除せず、適用終了日時を記録します。バックアップから戻した後も最新版を識別できる命名が必要です。
条件表が使われなくなる5つの原因
条件表が使われなくなる主な原因は、記録の単位と更新方法が曖昧なことです。次の状態があれば、欄を増やす前に運用を直します。
- 最新値を上書きし、変更前の値が残っていない
- 品番、材料ロット、金型、成形機のどれかが特定できない
- 変更理由が「調整」だけで、発生した現象が分からない
- 設定値はあるが、外観、重量、寸法などの結果がない
- 採用条件を誰がいつ量産へ反映したか追えない
運用を始めるときは、過去の条件表を一度に移し替えません。直近で条件調整が発生した1製品を選び、変更前後と判定結果を最後まで記録します。書けなかった項目が、様式を直す対象です。
記入後は、別の担当者が同じ条件を探せるか確かめます。口頭説明が無いと品番や試打品を特定できない場合は、識別欄が不足しています。結果を読んでも採否の理由が分からない場合は、品質確認か承認欄を補います。
最初から全設備の様式を統一すると、設備固有の表示項目を落とすおそれがあるためです。まず1製品・1金型の記録を使い、記入に迷った欄と不足した欄を確認してから横展開します。
品質テーマの記事をまとめて確認したい場合は、品質・歩留まりの記事一覧から、検査・原因分析・管理図の順に関連情報を選べます。
よくある質問
射出成形の条件表に決まった法定様式はありますか
今回確認した公的資料では、全国共通の法定様式は確認できませんでした。製品規格、顧客要求、社内標準、材料・設備の仕様に合わせて項目を決め、変更履歴と良否判定を追える形にします。
成形機の内部メモリーがあれば紙や表計算の記録は不要ですか
内部メモリーだけでは、変更理由、試打番号、外観や重量の結果、採否の判断まで結び付かない場合があります。設備から取得できる値と、人が判断した内容を同じ記録番号で対応させます。
複数の条件を同時に変えてはいけませんか
安全や設備上の理由で、複数項目を連動して変える場合があります。その事実を一組として記録し、結果から一項目だけの効果を断定しません。変更順を分けられるかは、作業標準と担当者の判断で決めます。
まとめ
- 条件表は、識別、基準条件、変更履歴、品質確認、承認・引継ぎの5つに分ける
- 品番、材料、金型、成形機を特定してから設定値を比べる
- 変更前、理由、変更後、試打番号、良否を1行で追う
- 狙った不良だけでなく、新しい不良や重量・寸法の変化も確認する
- 採用条件に版を付け、不採用条件も履歴として残す
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。