なぜなぜ分析は、起きた事象に「なぜ」を繰り返し、対策が打てる原因までたどる進め方です。なぜなぜ解析とも呼ばれます。
この記事は、労働災害の調査で行政が示している要素区分を参考に、不良や設備の停止にも応用できる実務上の整理として手順をまとめます。ただし行政資料は、品質不良や設備停止への適用を示したものではありません。
進める順序は事象を1つに絞る、4Mで「なぜ」の軸を足す、止めどころを決める、記録に残すの4段です。分析の工数を配る目安として、同種の事象がすでに2回以上起きている場合、または再発したときの影響が大きい場合の、いずれかを対象にします。
まず事象を1つに絞る。掘り下げの成否はここで決まる
なぜなぜ分析の結果は、最初に置く事象の書き方が大きく影響します。「不良が多い」から始めると、出てくる「なぜ」も同じだけ漠然とします。
事象は、いつ・どこで・何が・どれだけ、の4点が入る一文で書きます。埋まらない項目は、記録や現物を見て確かめてから掘り下げに入ります。安全上すぐ手を打つ必要がある場合は、停止や隔離などの暫定処置を先に行います。
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| よくある書き方 | 足りない点 | 直した書き方 |
|---|---|---|
| 不良が多い | いつ・どこで・どれだけが無い | 8月の第2ラインで、A部品の寸法不良が18個出た |
| 設備がよく止まる | 何がどう止まったかが無い | 8月に3号機の搬送部で、ワーク詰まりによる停止が7回あった |
| 作業ミスが減らない | 人の評価になっていて事象ではない | 8月の夜勤帯で、工程Bの投入順の誤りが4回あった |
絞る前に、事象を「型」で数える
絞る対象は、感覚だけで決めず、まず型別の件数を確認します。同じ性質の事象をまとめる区分を型と呼びます。件数に加え、重大性や再発時の影響も併せて選びます。
国の労働災害統計にも、「事故の型」による分類があります。厚生労働省は製造業の休業4日以上の死傷者を、型別に集計して公表しています。抽出調査から母集団に復元した推計値です(厚生労働省「労働災害原因要素の分析(平成31/令和元年 製造業)」)。
製造業の労働災害を「事故の型」で分類した死傷者数
データを表で見る
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| 事故の型 | 死傷者数(人) |
|---|---|
| はさまれ、巻き込まれ | 1795 |
| 転倒 | 1366 |
| 墜落、転落 | 833 |
| 切れ、こすれ | 670 |
| 飛来、落下 | 473 |
| 激突 | 339 |
| 激突され | 317 |
| 高温・低温の物との接触 | 244 |
| 崩壊、倒壊 | 155 |
この推計値では、全型の合計が7,186人でした。多い順に3つの型を足すと3,994人で、全体の約56%になります。5つまで広げると5,137人で、約71%です。
原典は、小さい数値より全体の分布を見る統計だと注記しています。ここから言えるのは件数が上位の型に集中していることです。自社データも型別に集計すると、頻度の面で優先すべき候補を絞れます。ただし重大性や再発時の影響も併せて判断します。
なお上の分類は労働災害用です。不良は自社の不良項目で型を作ります。型別の数え方や層別の手順は不良率はどう下げる?層別・工程能力・なぜなぜ分析で原因をたどる手順で整理しています。
「なぜ」が作業者の不注意で止まったら、4Mで軸を足す
なぜなぜ分析が空振りする代表的な形の一つは、2回目か3回目の「なぜ」が「作業者が確認しなかったから」に着地し、そこで打ち切られる形です。
労働災害の基本原因を複数の観点から検討する枠組みとして、行政資料には4M方式があります。厚生労働省 三重労働局「同種災害の再発防止対策の実施について」に、その案内があります。労働災害の調査では一般的に「4M方式」による基本原因の分析方法が活用されている、としています。本記事では、これを「不注意」で分析を止めないための補助枠として使います。
4Mは、原因を4つの要素に分けて見る枠組みです。厚生労働省 熊本労働局「各事業場の再発防止対策取りまとめ結果」は、転倒災害や腰痛等の行動災害を対象にした資料です。同資料では、各要素の着眼点が次のように整理されています。
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| 要素 | 見る対象 | 着眼点の例 |
|---|---|---|
| Man(人的要因) | 心理・生理・職場 | 忘却、考え事、省略行為、疲労、睡眠不足、人間関係、コミュニケーション |
| Machine(機械要因) | 機械設備 | 設計上の欠陥、危険防護不良、標準化不足、点検整備不良 |
| Media(媒体・作業環境要因) | 人と機械をつなぐ情報・方法・空間・環境 | 作業情報不適切、作業方法不適切、作業空間不良、作業環境不良 |
| Management(管理要因) | 管理の仕組み | 規程・マニュアル不備、教育訓練不足、監督・指導不足、適正配置不十分 |
同じ資料は、提出された対策書の傾向についてこう述べています。
なお、どの事業場も単に労働者の不注意と結論付けることなく様々な検討が図られていた。
— 厚生労働省 熊本労働局「各事業場の再発防止対策取りまとめ結果」
同資料は、4Mの各項目をフォーマットにして検討すると効果的な対策を検討できるとしています。次の手順は、この区分をなぜなぜ分析に組み込むための本記事独自の進め方です。
- 事象を4Mの4行に写す:1つの事象について、4要素それぞれで「なぜ」を1回ずつ書く
- 書けない要素は空欄のまま残す:無理に埋めず、現場で確かめる項目として扱う
- 要素ごとに次の「なぜ」へ進む:人の要因も、疲労・情報・配置などの背景まで進める
- 要素をまたいで同じ背景が出たら、そこを掘る対象にする

どこで止めるか。5回は回数の目標ではない
「なぜ」を何回繰り返すかは、回数ではなく到達点で決めます。5回という言い方は目安であり、5回書けば終わりという意味ではありません。
止めどころに公的な統一基準はありません。本記事では、次の3つがそろった時点とします。どれかが欠けている場合は、欠けている条件に応じて、原因をさらに掘る・現場や記録で確かめる・担当を割り当てる・上位へ引き継ぐのいずれかを行います。
- 対策の内容が変わらなくなった:もう一段掘っても、打つ手が同じものになる
- 対策を実行する担当と場所が決まる:誰が、どの設備・帳票・手順を変えるかまで言える
- その原因が事実で確かめられる:記録、現物、設定値のいずれかで裏づく
職場だけでは変えられない条件に届くこともあります。「人員が足りない」「予算がない」といった管理上の原因です。分析を打ち切るのではなく、事実と影響を整理して上位へ引き継ぐ論点として分けて記録します。
対策は、原因への手当てだけで終えません。熊本労働局の取りまとめでは、不安定なすのこの撤去や安全靴の導入といった設備・用具の変更が対策例に挙げられています。安全衛生委員会での協議とその周知も挙げられています。注意喚起だけに限定せず、原因に応じて設備・用具、作業情報、教育、配置、管理方法の変更を組み合わせます。
対策にかける費用が見合うかどうかは、不良にかかっている費用と比べて判断します。考え方は品質コストとは?予防・評価・失敗コストの考え方と工場での使い方にまとめています。
記録に残す5項目と、次に同じ事象が出たときの使い方
なぜなぜ分析は、記録の形をそろえないと積み上がりません。行政も様式を示しています。三重労働局は、一部の労働災害について再発防止対策書の提出を求めています。4M方式による基本原因の分析を行ったうえで、所轄の労働基準監督署へ提出する形です。様式も公開されています。
次の5項目は、その公開様式そのものではありません。不良や設備停止にも使えるように本記事で整理した簡易様式です。1件1枚で、事象・掘り下げ・確かめた事実・対策と担当は原則として埋めます。持ち上げた論点は、該当する場合に記入します。
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| 記録する項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 事象 | いつ・どこで・何が・どれだけ。型の名前も付ける |
| 掘り下げ | 4Mの要素ごとの「なぜ」と、たどり着いた原因 |
| 確かめた事実 | 原因の裏づけに使った記録・現物・設定値 |
| 対策と担当 | 原因に応じて変えた設備・用具、作業情報、教育、配置、管理方法などの内容、担当と実施日 |
| 持ち上げた論点 | その職場では変えられない条件として分けたもの |
次に同じ型の事象が出たときは、まず過去の1枚を開きます。再発していれば、掘り下げの深さ、原因と対策の対応、実施状況と定着度、条件の変化、別の原因の有無を順に再点検します。再発は、前回の分析を検証する材料として扱います。
設備の停止を対象にする場合は、停止の間隔と復旧時間も同じ台帳で追うと、対策後の変化を確認する材料になります。指標の取り方はMTBF・MTTRとは?予防保全のKPIの決め方と法定点検周期の線引きで整理しています。
品質・歩留まりに関する他の切り口は品質・歩留まりのテーマ一覧にまとめています。
よくある質問
「なぜ」は必ず5回繰り返す必要がありますか
回数は目安です。この記事では、対策の内容が変わらなくなり、担当と場所が決まり、事実で裏づけられた時点を止めどころとしています。少ない回数で条件がそろうこともあれば、原因の追加分析、事実確認、担当の割当て、上位への引継ぎなどが必要なこともあります。回数を目標にすると、条件を満たさないまま5行埋めて終わる形になりやすくなります。
1人で進めても意味がありますか
1人でも書けますが、4Mの4要素のうち埋まらない部分が出ます。設備の設計や点検の履歴は保全、作業手順や配置は製造の担当が持っているためです。少人数の職場でも、事象を1つに絞ったうえで、設備と作業の両方を知る人を1人加えると、埋まらない要素が減ります。
不良と設備トラブルと労働災害で、進め方は変わりますか
本記事で示した4段の順序は共通です。変わるのは型の分け方と、確かめる事実の種類です。不良なら検査記録と現物、設備停止なら停止記録と設定値、労働災害なら現場の状況と作業内容が裏づけになります。労働災害では4M方式や公開様式を参考にし、労働基準監督署から作成・提出を求められた場合は、その指示と指定の様式に従います。
まとめ
- 事象は、いつ・どこで・何が・どれだけ、が入る一文にする。埋まらない項目は記録や現物で確かめる
- 掘る対象は型ごとの件数を確認し、重大性や再発時の影響も併せて選ぶ。厚生労働省の製造業の推計値では、多い順に3つの型で全体の約56%を占めていた
- 「なぜ」が作業者の不注意で止まったら、4M(Man・Machine・Media・Management)の4要素で問い直す
- 本記事の止めどころは、対策が変わらない・担当と場所が決まる・事実で裏づく、の3条件
- 記録は1件1枚で、基本4項目と、該当する場合の「持ち上げた論点」を残す。再発したときは前回の分析を5つの観点で再点検する
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
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