取適法(とりてきほう)は、規模の大きい会社が小さい会社へ製造や加工を発注するとき、代金の払い方などを定めた法律です。2025年までは下請法(下請代金支払遅延等防止法)と呼ばれていました。自社が発注する側として対象になるかは、取引の内容と資本金の区分で判定し、資本金の基準が当てはまらない場合は従業員数の基準でも判定します。
結論を先に書きます。外注先への代金は受け取った日から60日以内、しかもできる限り短い期間内に払う決まりです。数え始める日は検査が終わった日ではなく、品物を受け取った日です。そして2026年1月1日以降に発注した対象取引では、手形による支払いが禁止されました。
この記事では、60日の数え方、月末締め翌月末払いの扱い、変わった支払手段、遅れたときの利息の4点を、条文と公的資料に当たりながら整理します。
起算日は「検査が終わった日」ではなく「受け取った日」
60日の1日目は、品物が工場に入った日です。根拠は法律の第3条第1項で、給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日以内に支払期日を定めなければならないと書かれています。
大事なのは「検査をするかどうかを問わず」という一句です。受入検査に2週間かかっても、60日は入荷した日から動き出します。検査完了日を計上の基準にしている工場は、この時点でずれが生じます。
支払期日を決めていなかった場合はどうなるか。第3条第2項により、受領した日がそのまま支払期日とみなされます。60日を超える期日を定めた場合は、受領日から60日を経過した日の前日が支払期日として扱われます。決め忘れは「その日払い」になるということです。
2026年1月から、対象になる会社の範囲が広がった
従来の資本金による線引きに加えて、従業員数による基準が入りました。製造委託等では、常時使用する従業員が300人を超える法人が、300人以下の法人または個人事業者に発注する場合も対象になります。資本金が小さくても人数で対象になる工場が出てきます。
自社の取引が対象かどうかは購買と経理に確認します。判定の手順は値上げ要請にどう対応する?取適法の確認から回答・記録までの手順で整理しています。
月末締め翌月末払いは「受領後2か月以内」として扱われる
月単位の締切制度は、60日を数日超えても支払遅延として扱われません。継続的な取引で「毎月末日納品締切、翌月末日支払」という形を使う工場は多いはずです。
この場合、月の初日に受け取った品物の支払いが61日目、あるいは62日目にずれ込みます。31日の月をまたぐためです。公正取引委員会の公式テキストは、この規定を「受領後2か月以内」として運用しており、支払遅延として問題にしていないと明記しています。

一方、この期間を超える給付が出る制度は違反になります。公式テキストは「毎月25日納品締切、翌々月5日支払」を、受領から60日を超えた支払いの例として挙げています。暦の上の呼び名ではなく、個々の受領日から支払日までが運用上の期間に収まるかで判断します。
支払遅延は、支払制度だけでなく日々の事務処理からも起きる
公表されている違反行為事例には、支払制度の設計に加えて、検収・計上・請求書処理などの日常業務に起因する例も挙げられています。製造委託と修理委託の事例を、工場で起きる形に置き換えると次のようになります。
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| 工場で起きる形 | 何が問題になるか |
|---|---|
| 検査が終わった月に納入計上する | 受領は入荷時点。計上月がずれた分が遅延になる |
| 常時在庫させ、使った分だけ払う | 納入済みの残りが未払いのまま残る |
| 納期前に届いた分を納期の月に計上する | 受け取った時点が起算日。前倒し納入分が遅れる |
| 締切間際の伝票処理が翌月に回る | 翌月締めに繰り越され、支払いが1か月遅れる |
| 相手の請求書が届かないので払わない | 請求書の遅れは支払いを遅らせる理由にならない |
| 支払日が銀行休業日のため翌営業日にする | 事前の書面合意がなければ遅延にあたる |
これらは悪意がなくても起こり得ます。会計処理の都合が、そのまま法律上の遅延になるという点が、この分野の難しさです。
禁止行為(実体規定)違反の類型別件数
※ 合計7,228件。1つの事件で複数類型に該当する場合がある
データを表で見る
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| 違反類型 | 件数 |
|---|---|
| 支払遅延 | 3,787 |
| 代金の減額 | 1,323 |
| 買いたたき | 1,006 |
| 不当な経済上の利益の提供要請 | 454 |
| 不当な給付内容の変更・やり直し | 332 |
| 割引困難手形 | 145 |
| 有償支給原材料等の対価の早期決済 | 74 |
| 返品 | 52 |
| 受領拒否 | 32 |
| 購入・利用強制 | 23 |
支払遅延は3,787件で、禁止行為違反の52.4%を占めます。これは事件数ではなく違反行為類型別の計上件数です。同じ年度の勧告は39件、指導は8,261件でした。支払遅延の原状回復額は1億4605万円、原状回復を受けた側は2,042者でした。
単純に割ると1者あたり約7.2万円で、代金の減額の約16.7万円より小さい数字です。ただしこれは違反1件あたりの金額でも、支払遅延による損失の総額でもありません。自社の計上ルールは経理に確認するのが早道です。
2026年1月1日以降の発注分は手形払いが禁止。振込手数料の差し引きも見直す
支払手段は「支払期日に満額の現金が相手に届くか」で判断します。2026年1月1日以降に発注した対象取引では、手形による代金の支払いが禁止されました。支払遅延にあたる扱いです。
電子記録債権(でんさい)やファクタリングを使う場合も条件が付きます。公正取引委員会のリーフレットは、支払期日までに代金の満額相当の現金を得ることが困難なものは違反になると説明しています。満期日が支払期日より後で、支払期日までに現金化するのに割引が必要な場合や、満額を受け取るのに受取手数料等の負担が生じる場合が該当します。
振込手数料の扱いも確認が要ります。公式テキストのQ&Aは、相手が負担する旨の合意があるかどうかにかかわらず、振込手数料を代金から差し引くことは違反になると述べています。合意書があるから大丈夫、とはなりません。
遅れたときは年14.6%の遅延利息がかかる
受領日から60日を経過しても支払わなかった場合は、その60日を経過した日から実際に支払う日まで、遅延利息を払う義務が生じます。率は法律の第6条と公正取引委員会規則により年14.6%と定められています。定めた支払期日を過ぎた時点で支払遅延には当たります。
計算は「未払いの金額に年14.6%をかけ、遅れた日数の分だけ日割りする」形です。
300万円の支払いが、60日を経過した日から30日遅れた場合、300万円×14.6%×30÷365で36,000円になります。
遅延利息を払えば支払いを遅らせてよいという趣旨ではない、と公式テキストは明記しています。まとめ買いで支払サイトを延ばす交渉をする場面でも同じ線引きが働きます。発注条件そのものの考え方は発注ロットは大きいほど得か?まとめ買いの損益を試算する考え方で扱っています。
自社の支払条件を点検する順序
点検は次の順で進めると、誰に何を聞けばよいかがはっきりします。調達・材料費のテーマ一覧にある他の論点と同じく、確認する順序を先に決めておくことが要点です。
- 対象取引を洗い出す:取引内容を確かめたうえで、資本金の区分、必要に応じて従業員数の基準で、自社が発注側にあたる取引を購買に確認する
- 起算日を確かめる:受入検査の完了日を計上基準にしていないか、経理と現場で突き合わせる
- 最も早い受領日から数える:締切期間のうち最も早い受領日から支払日までが、運用上認められる範囲に収まるかを取引先ごとに確認する
- 支払手段を確認する:手形の残りがないか、電子記録債権の満期が支払期日より後になっていないかを見る
- 差し引き項目を点検する:振込手数料など、代金から引いている項目をすべて挙げる
1と5は購買と経理、2は現場と経理の共同作業になります。判断に迷う取引が出たら、公式テキストに当たるか、公正取引委員会の相談窓口へ問い合わせるのが確実です。
よくある質問
相手から請求書が届かないときも、支払期日までに払う必要がありますか
あります。公式テキストは、請求書の提出遅れを理由とした支払遅延を違反行為事例として挙げています。あわせて、相手が請求額を集計できる十分な期間を確保し、遅れる場合は督促するなどの対応が望まれるとしています。
受入検査に時間がかかる場合、支払期日を延ばせますか
検査に時間がかかることを理由に、受領日から60日を超える支払期日を設定することはできません。検査に要する期間を見込んだ支払制度にする必要がある、と公式テキストは説明しています。
取引先と合意していれば、60日を超える支払期日でも問題ないですか
問題になります。合意があっても、60日を超えて定めた場合は受領日から60日を経過した日の前日が支払期日とみなされます。振込手数料の差し引きも、合意の有無にかかわらず違反とされています。
まとめ
- 支払期日は受領日から60日以内、かつできる限り短い期間内。起算日は検査完了日ではなく受領日
- 月末締め翌月末払いは「受領後2か月以内」として運用され問題にならないが、この期間を超える給付が出る制度は違反
- 2026年1月1日以降の発注分は手形払いが禁止。電子記録債権等も支払期日までに満額相当の現金を得られることが条件
- 遅延利息は年14.6%。起点は受領日から60日を経過した日で、支払期日を過ぎた時点で支払遅延には当たる
- 点検は対象取引、起算日、最も早い受領日から支払日までの期間、支払手段、差し引き項目の順で行う
この記事の出典は次の4点です。制度の内容は2026年8月時点のものです。
- e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」を条文の根拠として参照しています
- 公正取引委員会「中小受託取引適正化法テキスト」から運用と違反行為事例を引用しました
- 同「トリテキ法の確認ポイント-代金編-」(2025年10月)で支払手段のルールを確認しています
- 同「令和7年度における取適法の運用状況」(2026年6月10日公表)が件数と金額の出典です
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。