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値上げ要請にどう対応する?取適法の確認から回答・記録までの手順

値上げ要請への対応手順。仕入先から値上げを求められたら、取適法の対象確認→公表資料での妥当性確認→回答と記録の順に進める。

値上げ要請と受けた側の対応手順の文字、値上げ後の見積書と協議のテーブルを描いたサムネイル
15調達・材料費

仕入先から値上げを求められたとき、発注する側はどう対応すればよいのでしょうか。2026年1月1日に下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正・改称されました。通称は取適法です。取適法は、要件を満たす委託取引について、委託事業者に義務と禁止事項を定めた法律です。

取適法が適用されるかは、二つの要素で決まります。取引の内容と、自社・仕入先の資本金または従業員数の組み合わせです。

仕入先から値上げの申し入れが届きました。最初に決めるのは「受けるか、断るか」ではありません。まず協議のテーブルにつき、判断の根拠と説明を記録に残す——この順序が先です。

対象となる取引には、明文の禁止事項があります。代金の協議を求められたのに必要な説明などをせず、一方的に代金を決めることは禁じられています。

対象となる取引では、金額が妥当かどうかだけが論点になるのではありません。協議と説明の進め方も法令上の論点です。以下では、値上げ要請を受け取った側の対応を、①適用される法律の確認、②公表資料での根拠の照合、③回答と記録の残し方の順に整理します。あわせて、自社が受注側に回るときの枠組みも扱います。

図1は、この3ステップを適用の確認・協議の場・根拠の照合・回答と説明・記録の保管の5段階に分けて示しています。なお、ここに書いている制度の内容は、2026年8月時点のものです。

値上げ要請を受けてからの順序を、適用の確認・協議の場・根拠の照合・回答と説明・記録の保管の5段階で示した図
図1 値上げ要請を受けてからの順序

その取引に「取適法」がかかるかを先に確かめる

最初に確かめるのは適用の有無です。この取引に、法律がかかるのかどうかを見てください。2026年1月1日に、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の改正法が施行されました。法律の名前は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」という、とても長いものに変わりました。

新しい通称は「取適法(とりてきほう)」というものです。そして、親事業者は「委託事業者」に、下請事業者は「中小受託事業者」にと、用語も変わりました(公正取引委員会「取適法リーフレットNo.01」令和7年8月)。

適用の有無は、どうやって判断すればよいのでしょうか。①取引の内容が対象取引に当たるかどうか、②委託側と受託側の資本金または従業員数の組み合わせが、規模の要件を満たすかどうかです。この両面で判断します。

規模の基準は、取引の類型ごとに、細かく定められています。改正によって、資本金基準に加えて従業員基準が追加されました。対象となる取引には、特定運送委託も新たに加わっています。

工場の購買で分かれ目になりやすいのは、①の取引の内容です。製造委託の「委託」とは、どのようなことを指すのでしょうか。規格・品質・性能・形状・デザインなどを指定して、製造や加工を依頼することです。

規格品や標準品を、そのまま購入することは、原則として「委託」には当たりません。ただし、たとえその一部であっても、自社向けの加工をさせるときは、該当します(公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」令和7年11月)。

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確かめることどこを見るか分かれ目
取引の内容物品の製造・加工を依頼し、図面や仕様書で規格等を指定しているか指定して依頼していれば製造委託に当たり得る。規格品をそのまま買う取引は原則対象外
事業者の規模自社と相手方双方の資本金額と従業員数取引類型ごとに定められた、委託側と受託側の資本金または従業員数の組み合わせで判定する
取引の種類建設工事に当たらないか建設業を営む者が請け負う建設工事は取適法の対象外
補足:建設工事が対象外なのは、建設業法に類似の規定があるためで、規制が無いという意味ではありません。判断しにくいときは、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口で確認できます。

「協議に応じない一方的な代金決定」が禁止事項に加わった

取適法では、委託事業者に4つの義務と11の禁止事項が課されています。改正で加わったのが「協議に応じない一方的な代金決定」(第5条第2項第4号)です。

費用が変動するなどの事情が生じました。中小受託事業者が代金の協議を求めたとします。それなのに、協議に応じない、または求められた事項に必要な説明や情報の提供をしないまま、一方的に代金を決めることが禁じられました。

ここで言う「決定」には、値上げも値下げも、従来の価格に据え置くことも含まれます。返答をしないまま従来の単価で発注を続けたり、合理的な理由なく回答を引き延ばしたりすることがあります。これらは、据置きの決定や協議の引き延ばしとして、問題となるおそれがあります。

協議を求めるときの形式は、一つに限られません。前掲テキストによると、「協議を求めた」は書面か口頭かを問いません。協議を希望する意図が、客観的に認められる場合を含みます。従来の単価を引き上げて計算した見積書の提示も、これに当たり得ます。

正式な依頼の文書でなくてもかまいません。見積書を受け取った時点から協議の経過を記録しておくと、後の説明がしやすくなります。

同テキストが挙げている、これに当たり得る対応は、次のとおりです。

  • 協議の拒否:引上げの協議を求められたのに、拒否・無視・引き延ばしをする
  • 過度な情報開示の要求:合理的な範囲を超える情報の提示を、協議に応じる条件とする
  • 理由なき一部拒否・据置き:合理的な理由を示した求めに、説明も根拠資料もなく一部を拒む、または従前の額を提示する
  • 引下げの根拠不提示:自社から引下げを要請し、説明を求められても理由や根拠資料を示さず引下げ額を提示する

労務費の要請額を検討する際は公表資料を判断材料にする

労務費が上がった分を、どう検討するかの判断材料について、内閣官房と公正取引委員会が指針を示しています。その指針の名称は、少し長いのですが、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和5年11月29日策定、令和8年1月1日改正。以下「労務費転嫁指針」)というものです。この指針が整理しているのは、発注者・受注者が採るべき12の行動指針です。

発注者としての行動には、根拠となる資料を求めるときは、公表されている資料に基づくものとすることが挙げられています。受注者が公表資料を用いて提示した価格は、合理的な根拠があるものとして尊重することも挙げられています。満額を受け入れないときは、その根拠や合理的な理由を説明することが求められます。指針が例示する公表資料は、次のとおりです。

  • 都道府県別の最低賃金やその上昇率
  • 春季労使交渉の妥結額やその上昇率
  • 国土交通省が公表する公共工事設計労務単価の関連職種の単価やその上昇率
  • 一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃(令和6年国土交通省告示第209号)
  • 毎月勤労統計調査の賃金指数・給与額、消費者物価指数、ハローワークの求人票の同業他社賃金

指針には、発注者側の取組事例として、労務費上昇分を次の考え方で概算する例も紹介されています。標準として決まった算定式はありません。個別の取引ごとに、内容やコスト構成を踏まえた協議が必要です。概算を置いてから差を詰めていくと、購買・設計・経理で共通の前提を置きやすくなります。

式は言葉にもできます。従来の取引価格に、労務費の上昇率と、売上高に占める労務費の割合をかけ合わせてください。

労務費上昇分を反映する場合の概算例(円)= 従来の取引価格 × 労務費の上昇率 × 売上高に占める労務費の割合

逆に、公表資料に基づく説明が出ているのに、さらに詳細な資料や内部情報まで求めることがあります。それを理由に協議しないまま価格を据え置くことは、問題となるおそれがある、と指針は指摘しています。指針が挙げているのは、優越的地位の濫用(取引上の優越的な地位を利用して相手方に不当に不利益を与える行為)です。ほかにも、買いたたきや、協議に応じない一方的な代金決定があります。

回答と記録の残し方を型にする

指針は共通の行動として、価格交渉の記録を作成し、双方で保管することを挙げています。担当者が異動しても、次回の交渉を同じ地点から始められるからです。次の表は法令上の必須事項ではなく、経過を説明できるようにするための運用例です。

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回答の種類記録に残す内容あわせて確認すること
要請どおり受け入れる根拠にした公表資料と適用時期、対象品目次回の見直し時期を決めたか
一部のみ受け入れる受け入れられない部分の理由と考え方の根拠口頭で終えず文書やメールで返したか
今回は据え置く協議の経過、提示した説明、双方の合意事項据置きも「決定」に当たると認識したか
値上げ要請への対応では、価格水準の妥当性に加えて、実質的な協議と説明が行われ、その経過が残っているかが問われます。

支払いの条件も、同じ機会に点検してください。取適法は、受領日から数えて60日以内のできる限り短い期間内で、支払期日を定めることを義務付けています。支払が遅れてしまったときには、年率14.6%の遅延利息を支払う必要があります。不当な減額は、別途、禁止事項に当たります。改正では、手形払なども禁止されました。

注意:労務費の転嫁を求められたことを理由に取引数量を減らす・取引を停止するなどの不利益な取扱いをしないことは、指針が挙げる発注者の行動です。取適法が報復措置として禁じているのは、公正取引委員会などへ違反行為を知らせたことを理由とする不利益な取扱いで、両者は別のものです。

自社が受注側に回るときに使える枠組み

自社が納入先へ値上げを求める側に回るときであっても、労務費転嫁指針が示す公表資料や交渉の方法を活用できます。取適法上の保護を受けられるかどうかの判断軸は、取引の内容と当事者の規模要件を満たすかどうかです。中小企業庁では、毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と定めています。月間のあとには、受注側の中小企業への調査を行っています。

中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(2026年6月26日公表)によれば、価格交渉が行われた割合は90.7%でした。価格転嫁率は54.2%でした。

コスト要素別では、原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%でした。労務費の転嫁率は、原材料費を下回りました(中小企業庁「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果」)。

コスト要素別の価格転嫁率を棒グラフで示した図。原材料費55.7%、全体54.2%、労務費50.0%、エネルギー48.9%
図2 コスト要素別の価格転嫁率(2026年3月調査)

自社が受注側になって、労務費の転嫁を求める場合も、同じように、指針が例示する公表資料を根拠にできます。材料費やエネルギー費は、変動を示す資料を別に整理して協議してください。

この指針では、公表資料がすでに提示されているときには、合理的な範囲を超える詳細な資料や内部情報の提出を、協議の条件としないように求めています。自社の側から原価に関する情報を提示するときは、交渉に必要な範囲かどうかを考えてください。

準備は要素の切り分けからです。自社のコストが上がった分を、それぞれの要素ごとに分けてください。電気代であれば再エネ賦課金と燃料費調整額を明細の項目で分けることができますし、基本料金の側は契約電力の決まり方から確認するという方法もあります。材料費や外注費の見直しは調達・材料費のテーマで扱っています。

相談する先に迷うかもしれません。窓口は次のとおりです。よろず支援拠点に設置された価格転嫁サポート窓口、取引かけこみ寺、商工会議所・商工会が、指針に挙げられています。

よくある質問

よく聞かれるのは、値上げ要請を断れるか、購入だけの仕入先も対象か、原価の内訳をどこまで求めてよいかの3つです。

値上げ要請を断ることはできますか

要請された額の全部または一部を受け入れないこと自体は、直ちに違反になりません。前掲テキストは、該当性は実質的な協議が行われたか否かで判断されるとしています。受け入れられないときは、その理由や考え方の根拠を十分に説明することが必要だとしています。

材料を買っているだけの仕入先も取適法の対象ですか

規格品や標準品を、そのまま購入するだけの取引であれば、それは原則として、製造委託には当たりません。ただし、たとえ一部であっても、自社向けの加工を依頼するときは、製造委託に該当します。取適法の対象外でも、取引上の優越的な地位を利用して相手方に不当に不利益を与える行為は、独占禁止法上の優越的地位の濫用として、問題になることがあります。

原価の内訳はどこまで出してもらってよいですか

理由の説明や、根拠となる資料を求めること自体には、問題はありません。それが指針の立場です。問題になるのは、公表資料に基づく説明が出ているのに、過度に詳細な資料や、相手が出したくない内部情報を重ねて求め、それを協議の条件にする場合です。

まとめ

  • 受諾の可否より先に、その取引が取適法の対象かを取引の内容と規模の組み合わせで確かめる
  • 2026年1月1日施行の取適法では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止事項に加わり、価格の据置きも「決定」に含まれる
  • 労務費上昇分を検討するときは、最低賃金や春季労使交渉の妥結額などの公表資料を判断材料とし、過度な内部情報の開示を協議の条件にしない
  • 協議の経過を記録し、要請額の全部または一部を受け入れないときは、その理由や考え方の根拠を説明する
  • 自社が受注側に回り労務費の転嫁を求めるときも、指針が例示する公表資料や相談窓口を活用できる。材料費やエネルギー費については、それぞれの変動を示す資料を別に整理する
  • #値上げ要請
  • #取適法
  • #価格転嫁
  • #下請法
編

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株式会社恒電社 編集部

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