停止のたびに日時と原因を書き残しているのに、月末に集計すると設備どうしを比べられません。予防保全の指標を整えようとすると、ここでつまずきます。MTBF(故障と故障の間の平均稼働時間)やMTTR(1回の故障を直すのにかかる平均時間)の式自体は単純で、つまずくのはその手前です。
次の4段階で進めましょう。
- 1回の停止の数え方を決める
- 4つの指標を1組で見る
- 記録の項目を揃える
- 点検周期を法令部分と自社部分に分ける
まず「1回の停止」をどう数えるかを決めるところが、出発点です。ここを飛ばすと、月末の集計はぶれます。
ここでは、労働安全衛生法に関連する省令の原文と、厚生労働省の労働災害統計(2026年8月時点で最新の令和7年確定値)をもとにします。取り上げるのは、指標と点検周期の決め方、そして点検を増やしすぎないための線引きです。他の論点については、設備保全のテーマページにまとめてあります。
MTBFとMTTRは、式ではなく「数え方」でつまずく
以下では、MTBFを「故障と故障の間、どれだけ動いていたか」、MTTRを「1回の故障を直すのにどれだけかかったか」を集計する考え方として扱います。MTBFは稼働時間の合計を故障の回数で割った値、MTTRは修復時間の合計を故障の回数で割った値として、一般に次の形で計算します。
分子と分母は単純です。それでも値は前提しだいで動いてしまいます。段取り替えの停止を故障として数えるか、手動停止や試運転をどう扱うかが決まっていない記録は、月ごとにも設備ごとにも比べられません。
正式な用語を確認したいときは、日本産業規格 JIS Z 8115:2019「ディペンダビリティ(総合信頼性)用語」(平成31年改正)を参照します。規格の案内は 日本規格協会 JIS Z 8115:2019 にあります。上の説明は規格そのものの定義文ではありません。集計方法を説明するために整理したものです。
4つの指標は、単独ではなく1組で見る
予防保全の指標は、壊れにくさ・直す速さ・止まった量・繰り返しの4方向に整理できます。1つだけを目標値にすると、別の方向の悪化が数字に見えにくくなります。下の表で、それぞれの内容を確認してみましょう。
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| 指標 | 何を表すか | 数え方が割れやすい点 |
|---|---|---|
| MTBF | 故障と故障の間、どれだけ動いていたか | 停止のうち何を故障に数えるか |
| MTTR | 1回の故障を直すのにかかった時間 | 部品待ち・応援待ちを含めるか |
| 停止時間の合計 | 生産に出た影響の総量 | 計画停止を分けて集計するか |
| 再発率 | 同じ設備・同じ部位が再び止まった割合 | 「同じ」を部位で見るか機種で見るか |
故障による停止・修復だけを対象にするとき、稼働率は次の式で表されることが多く、計画停止・段取り・材料待ちを含めた稼働率とは分けて扱います。
分子と分母が同じ前提で揃っていなければ、比較には使えません。4つを1組で見て、数え方の前提を共通にするほうが先になります。順番は逆にできません。
記録の項目は、法令が求める「検査の記録」を土台にする
記録様式を、ゼロから設計する必要はありません。労働安全衛生法第45条第1項では、政令で定める機械等について、自主検査とその記録を行うことをすでに義務づけています。条文には、「定期に自主検査を行ない、及びその結果を記録しておかなければならない」と書かれています(e-Gov法令検索 労働安全衛生法)。
労働安全衛生規則第135条の2は、動力プレスの定期自主検査記録として、次の6項目を挙げています。三年間の保存を求めています。
- 検査年月日
- 検査方法
- 検査箇所
- 検査の結果
- 実施者の氏名
- 補修等の措置の内容
同じ6項目は、フォークリフト第151条の23・車両系建設機械第169条も同様です(e-Gov法令検索 労働安全衛生規則)。
この6項目はあくまで定期自主検査の記録項目です。法令が突発停止記録にも同じ項目を求めているわけではありません。それでも、記録票を設計するときの土台には使えます。「検査方法・箇所・結果」は「確認方法・異常箇所・確認結果」と読み替えたうえで、足りない時間や影響として、次の4欄を加えていきます。
- 停止した時刻と復旧した時刻(試運転の終了時刻は分ける)
- 停止の区分(故障・計画停止・段取り・材料待ちのどれか)
- 影響(止まった工程、出せなかった数量、後工程への波及)
- 同じ設備・同じ部位で前回止まった日

この10欄に設備番号・稼働時間をひも付ければ、4つの指標を同じ台帳から集計できるようになります(再発率は分母と「同じ故障」の基準も決めます)。欄が空のまま集計した数字は、あとから検算することができません。
毎月同じ表を同じ担当者が見る運用は、契約電力はどう決まる?デマンド監視装置で工場の基本料金を下げる現場手順で電力の側から整理しています。
点検周期は「法令で決まる部分」と「自社で決める部分」に分ける
まず法令で周期が決まっている部分と、自社で決める部分を分けることになります。前者は点検間隔の上限にあたるもので、通常の使用では短くはできても、超えて延ばすことはできません。
労働安全衛生法施行令第15条では、定期自主検査を行う機械等が列挙されています(動力プレス、遠心機械、化学設備、乾燥設備、局所排気装置など)。周期については、機械ごとに労働安全衛生規則のほうで、細かく定めています。
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| 対象(例) | 定期自主検査の周期 | 根拠(労働安全衛生規則) |
|---|---|---|
| 動力プレス | 一年以内ごとに一回 | 第134条の3 |
| 乾燥設備及びその附属設備 | 一年以内ごとに一回 | 第299条 |
| フォークリフト | 一年を超えない期間ごとに一回/一月を超えない期間ごとに一回 | 第151条の21・第151条の22 |
| 車両系建設機械 | 一年以内ごとに一回/一月以内ごとに一回 | 第167条・第168条 |
| 絶縁用保護具等 | 六月以内ごとに一回(絶縁性能) | 第351条 |
フォークリフト・車両系建設機械には、年次・月次に加えて、作業を始める前の点検も定められています(第151条の25、第170条)。年次検査の一部は特定自主検査と呼ばれ、厚生労働省令で定める資格者か検査業者が行うこととされています(労働安全衛生法第45条第2項)。
特定自主検査の実施基準は、2026年1月1日から新しいものに変わりました。厚生労働省が、高所作業車・車両系建設機械・フォークリフト・不整地運搬車・動力プレスについて「特定自主検査基準」というものを告示しました。
これにより、旧「特定自主検査指針」は廃止されています(佐賀労働局 特定自主検査基準が制定されました)。対象になる設備に、どの資格要件が適用されるのかも、あわせて確認しておくとよいでしょう。
一方で、受変電〈じゅへんでん〉設備のうち事業用電気工作物については、電気事業法が周期を一律の数値では定めていません。同法第42条第1項では、設置者に対して保安規程の届出を求めています。
施行規則第50条第3項第3号は、保安規程の中に「巡視、点検及び検査に関すること」を定めるよう求める規定です(e-Gov法令検索 電気事業法施行規則)。具体的な周期がどうなるかについては、他の法令や設備の条件を踏まえたうえでの、保安規程の基準に従うことになります。
保安規程の届出や電気主任技術者の選任の全体像は、運営会社の恒電社サイトの解説(キュービクルの保安規程とは)にまとまっています。

実測した指標が一番効いてくるのは、この自社が設定する層のほうです。受電設備の力率を保つ進相コンデンサ〈しんそう〉のように、日常の運転では劣化になかなか気づきにくい機器は、点検の間隔が結果に直結してきます。この機器の見方については、力率割引で基本料金は何%変わる?進相コンデンサの点検で工場が確認したいことで扱っています。
点検を増やすほど良い、にはならない
周期を短くすれば安心、という判断は2つの理由で成り立ちません。1つは、点検内容によっては停止時間と危険作業を生むことです。
労働安全衛生規則第107条は、機械の掃除・給油・検査・修理・調整をするときに、労働者に危険が及ぶおそれがある場合のルールを定めています。原則として運転を停止したうえで、起動装置への施錠や表示板の設置などの措置を取るよう義務づけています。危険を伴う点検では、停止のための時間に加えて、安全のための措置も必要になってきます。
もう1つの理由は、災害の統計です。厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」によると、製造業における休業4日以上の死傷者数は26,371人でした。そのうち「はさまれ・巻き込まれ」が5,992人と、もっとも多くなっています(厚生労働省 令和7年の労働災害発生状況を公表)。
これは点検だけに限った集計ではありませんが、周期を検討するときには、安全対策もあわせて確認しておくとよいでしょう。では、どこで線を引けばよいのでしょうか。短縮を決める前に、次の順番で確認していきます。
- その故障は点検で見つかる型か(摩耗・緩み・漏れ・異音は気づきやすいが、事前兆候を捉えにくい突発故障は周期を詰めても見つけにくい)
- 実測したMTBFが現在の周期に近いか。MTBF単独でなく、故障モード・検出可能性・メーカー指定・使用条件もあわせて確認する
- 再発率が特定の部位に偏っていないか(周期ではなく処置の質や部品選定の問題のことがある)
- 点検に伴う停止時間と危険が、防げる停止時間に見合うか
周期を延ばすかどうかの検討は、季節による変動や使用条件を含めて判断できる記録が、揃ってから行います。必要になる期間は使用頻度や故障件数によって異なるため、まずは過去1年分の記録があるかどうかを確認します。前に挙げた表の設備は、法令が周期を定めているため、通常は延ばせません。周期を動かす前に、記録の型を揃えることが順序です。
よくある質問
MTBFとMTTR、先に手をつけるのはどちらですか
停止時間の合計を「件数×1件あたりの時間」に分解して決めます。件数が多いならMTBF側(故障を減らす)、1件が長いならMTTR側(部品手配や手順書、復旧担当)に効く打ち手を探すとよいでしょう。
故障が年に数回しかない設備でも、指標は使えますか
件数が少ないと平均は大きく振れてしまい、MTBF単独の比較には向きません。同じ型式の設備をまとめて数え、停止時間の合計と再発率を主に見ていくと、傾向はつかめます。値そのものよりも、記録欄が毎回同じように埋まっているかどうかを見ます。
点検周期を延ばしたいのですが、何から確認すればよいですか
まず、その設備が労働安全衛生法施行令第15条にあたる機械等かどうかを確認します。当てはまるときは、周期を労働安全衛生規則のほうで定めているため、通常は延ばせません。当てはまらない場合も、他の適用法令やメーカーの指定、保安規程を確認したうえで、範囲の中で実測した指標と再発率を検討材料にしていきます。
まとめ
- 指標の計算より先に、「故障」「稼働時間」「修復時間」の3語を自社で定義して記録様式に書く
- MTBF・MTTR・停止時間・再発率は1組で見る。稼働率(MTBF÷(MTBF+MTTR))は故障による停止だけを対象にした関係にすぎない
- 停止記録は、労働安全衛生規則が定期自主検査の記録として求める6項目を参考に、時刻・区分・影響・前回停止日の4欄を足して設計する
- 点検周期は、法令が周期を定める層と、法令・設備条件を確認して自社が設定する層に分け、実測した指標は後者に当てる
- 危険を及ぼすおそれがある点検は原則として停止と施錠を伴う作業でもある。周期を短くする前に、4つの確認を通す
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
受変電設備の更新・保全に携わる立場から、実務上の誤解を招かないかを確認しています。生産設備の保全に関する記述は、公的資料と公開情報にもとづきます。