クレーンの年次点検は、法律上は「1年以内ごとに1回」の定期自主検査です。工場で天井クレーンや橋形クレーンを使っている場合、結論は、年次、月次、作業開始前、屋外クレーンの暴風後等の点検を分けて管理することです。
同じ「点検」でも、周期、見る箇所、記録保存の扱いが違います。年次点検だけを外部に依頼しても、月次点検や作業開始前点検がなくなるわけではありません。混ぜません。現場では、クレーン台帳に4つの欄を分けると、期限切れや補修漏れに気づきやすくなります。
この記事では、2026年9月時点で確認できる厚生労働省の原文をもとに、主に工場内のクレーンの年次点検を整理します。移動式クレーンは条文番号が別なので、該当する設備を混同しないように確認します。
年次点検は「1年以内ごとに1回」の定期自主検査
クレーン等安全規則第34条は、クレーンを設置した後、1年以内ごとに1回、定期に自主検査を行うことを求めています。1年を超える期間使用しないクレーンは、その使用しない期間は対象外ですが、使用を再び開始する際には自主検査が必要です。
同条では、年次の自主検査で荷重試験を行うことも定めています。ただし、検査日前2月以内に性能検査の荷重試験を行ったクレーンや、検査日後2月以内にクレーン検査証の有効期間が満了するクレーンなど、例外が置かれています。
厚生労働省のクレーン等安全規則では、年次点検、月次点検、作業開始前点検、記録、補修が同じ節に並んでいます。ここが入口です。見積書や点検表を見る前に、まずこの並びで自社の台帳を確認してください。

月次点検と作業開始前点検は別に残る
第35条は、クレーンについて1月以内ごとに1回の自主検査を求めています。見る対象は、巻過防止装置などの安全装置、過負荷警報装置などの警報装置、ブレーキ、クラッチ、ワイヤロープ、つりチェーン、フックなどです。
配線、集電装置、配電盤、開閉器、コントローラーも月次点検の対象です。点検表の列が足りないと、電気系統の確認が抜けやすくなります。
第36条は、その日の作業を始める前に、巻過防止装置、ブレーキ、クラッチ、コントローラーの機能、ランウェイやトロリが横行するレールの状態、ワイヤロープが通っている箇所の状態を点検するよう定めています。
屋外に設置されているクレーンでは、第37条も見落とせません。瞬間風速が毎秒30メートルを超える風が吹いた後は、再使用前に各部分の異常の有無を点検します。中震以上の地震の後も同じです。
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| 区分 | 周期・タイミング | 現場での目的 |
|---|---|---|
| 作業開始前点検 | 作業日ごと | 当日使ってよい状態かを確認する |
| 月次の定期自主検査 | 1月以内ごと | 安全装置、警報装置、ワイヤロープ、つり具などを見る |
| 年次の定期自主検査 | 1年以内ごと | 設備全体と荷重試験の要否を確認する |
| 暴風後等の点検 | 屋外クレーンで強風・地震後 | 再使用前に異常の有無を確認する |
記録は3年間保存し、異常があれば直ちに補修する
第38条は、この節に定める自主検査と点検の結果を記録し、3年間保存することを求めています。ただし、第36条の作業開始前点検は、この記録保存の対象から除かれます。別扱いです。
ここで大事なのは、「3年間保存するもの」と「当日の使用判断に使うもの」を混ぜないことです。年次、月次、暴風後等の点検は保存記録として残し、作業開始前点検は現場の使用可否判断として扱います。
第39条は、自主検査または点検で異常を認めたとき、直ちに補修しなければならないと定めています。点検表に「異常あり」と書いて終わりでは足りません。異常、処置、再使用判断、次回確認日を同じ流れで追える状態が必要です。保全担当と現場責任者が同じ情報を見られます。
天井クレーンは指針の検査項目も確認する
厚生労働省は、天井クレーンの定期自主検査指針を公開しています。このページでは、天井クレーンに関する年次、月次の定期自主検査について、検査項目、検査方法、判定基準を定めたものとして案内されています。
条文だけを見ると、年次点検で何をどこまで見るかが現場資料に落ちにくいことがあります。天井クレーンの場合は、規則本文、定期自主検査指針、メーカーや保守会社の資料を並べてください。点検表がどの根拠に対応しているかの確認がしやすくなります。
とくに、無線コントローラー、巻過防止装置、ブレーキ、ワイヤロープ、つり具、電気系統は重要です。故障が作業停止や安全リスクに直結します。点検表の名称だけで判断せず、検査方法と判定基準が残っているかを見てください。

移動式クレーンは第76条から第80条を見る
トラッククレーンやクローラクレーンなどの移動式クレーンは、固定式のクレーンとは条文番号が違います。別物です。クレーン等安全規則第76条は、移動式クレーンについて1年以内ごとに1回の定期自主検査を求めています。
第77条は月次、第78条は作業開始前、第79条は自主検査記録の3年間保存、第80条は異常時の補修を定めています。大きな構造は似ていますが、点検項目や作業開始前に見る内容は固定式と同じではありません。
工場で「クレーン」と一括りにしていると、天井クレーン、ジブクレーン、移動式クレーン、簡易リフトが同じ台帳に混ざることがあります。まず設備ごとに、どの章と条文に当たるかを分けてください。
見積前に、対象設備と停止時間をそろえる
年次点検を外部へ依頼するときは、費用を見る前に対象設備をそろえます。設備番号、種類、つり上げ荷重、設置場所、屋内外、検査証の有無、前回点検日、月次点検の最終日、過去の異常履歴を一覧にしてください。
点検当日は、荷役作業、出荷、保全工事、立入制限が重なります。点検候補日を決めるときは、生産計画だけで判断しません。荷の移動ルート、代替設備、玉掛け作業者の手配、作業エリアの隔離も確認対象です。
複数台を保有する工場では、全台を同じ日に止めると構内物流が詰まることがあります。期限が近い設備、屋外で使う設備、過去に異常が出た設備を先に並べ、止める順番を決めてください。点検日、補修日、再使用判断日を別の予定として持つと、点検後の部品待ちにも対応しやすくなります。
点検日程の調整は、法定期限と異常時の補修を優先します。生産都合による期限超過は前提にしません。必要な措置の先送りも避けます。
設備保全全体の優先順位は、故障後の修理だけで決めると偏ります。故障までの間隔や復旧にかかる時間との関係を整理したい場合は、予防保全KPIの記事を参考にしてください。更新投資と修理の線引きは、設備更新判断の記事が使えます。
同じ保全テーマの記事を一覧で確認したい場合は、設備保全テーマページから、法定点検、更新判断、電気設備の保全記事をまとめて確認できます。
よくある質問
クレーンの年次点検は月次点検で代わりになりますか
代わりにはなりません。年次の定期自主検査は第34条、月次の定期自主検査は第35条で別に定められています。周期も見る範囲も違うため、台帳も分けて管理します。
作業開始前点検の記録も3年間保存が必要ですか
第38条は、自主検査と点検の結果を3年間保存するとしつつ、第36条の作業開始前点検を除いています。作業開始前点検は、当日の使用判断として別運用にするのが整理しやすいです。
移動式クレーンも同じ条文で見ればよいですか
固定式のクレーンとは別に、第76条から第80条で年次、月次、作業開始前、記録、補修が定められています。工場の台帳では、固定式と移動式を同じ欄に混ぜないようにします。
まとめ
- クレーンの年次点検は、1年以内ごとに1回の定期自主検査です。
- 月次点検、作業開始前点検、屋外クレーンの暴風後等の点検は別管理です。
- 年次、月次、暴風後等の点検記録は3年間保存します。
- 異常があれば、点検表に記録するだけでなく直ちに補修してください。
- 天井クレーンでは、規則本文と厚生労働省の定期自主検査指針を合わせて確認します。
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
受変電設備の更新・保全に携わる立場から、実務上の誤解を招かないかを確認しています。生産設備の保全に関する記述は、公的資料と公開情報にもとづきます。