在庫回転率とは、一定期間の売上高を、その期間の平均在庫で割った財務指標です。年間の売上高を使う場合、売上規模に対して棚卸資産をどの程度効率よく運用しているかを、年当たりの回数で表します。決算書の売上高と、前期末・当期末など複数時点の棚卸資産残高があれば、在庫管理システムがない工場でも計算できます。
在庫は、現金が形を変えたものです。材料の購入から製品の販売まで、資金の一部は棚卸資産の形で留まります。棚卸資産回転率が低い状態は、売上規模に対して平均在庫が多いことを示します。保管の場所と手間も、その間ずっとかかり続けます。
なお、売掛金の回収や買入債務まで含む資金循環全体は、営業運転資本回転期間など別の指標で確認します。
この数字の上げ方は2つしかありません。分子の売上を増やすか、分母の在庫を減らすかのどちらかです。逆に言えば、それ以外の打ち手はこの2つのどちらかに必ず分類できます。片方だけを見ていると、数字が動いた理由も分からなくなります。
ただし棚卸資産は、1つの塊ではありません。製品又は商品・仕掛品・原材料および貯蔵品の3区分に分かれます。膨らんでいる区分によって、打ち手も聞く相手も変わります。以下では式の確認、3区分での当たり付け、区分ごとの打ち手、比べる相手の決め方の順に整理します。在庫・物流の他の論点は在庫・物流のテーマページにまとめています。
在庫回転率は「売上高 ÷ 平均在庫」で出す
在庫金額だけでは、売上規模に対して在庫水準が適切かどうかを判断できません。売上が2倍になれば、在庫が増えるのは自然だからです。回転率は、売上高を平均在庫で割ることで、売上規模に対する在庫水準を比較しやすくします。前期と比べるときも、割った後の数字なら並べられます。比較のための道具だと考えてください。
式は単純です。在庫回転率は、売上高を平均在庫で割った値になります。中小企業基盤整備機構(中小機構)のJ-Net21「財務の基礎知識」は、棚卸資産回転率を次の式で示しました。
回数ではなく、期間で見る式もあります。財務省 財務総合政策研究所の「法人企業統計における財務営業比率の算式」では、棚卸資産回転期間を月単位で定義しました。何か月分の在庫を抱えているか、という見方になります。
呼び方は似ていますが、分母と分子が式ごとに違います。社内で数字を並べるときは、まずどの式で出したものかを確かめてください。
←→ 横にスクロールできます
| 指標 | 式 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 棚卸資産回転率(回/年) | 売上高 ÷ 平均在庫 | 売上規模に対する平均在庫の運用効率 |
| 棚卸資産回転期間(月) | 期首・期末平均の在庫 ÷(売上高÷12) | 在庫が何か月分あるか |
| 在庫率(%) | 期末の在庫 ÷(四半期売上高×4)×100 | 年換算した売上高に対する期末在庫の割合 |
在庫率の定義は、財務省「四半期別法人企業統計調査(令和8年1-3月期)」(2026年6月1日公表)によります。同調査では、全産業の在庫率は2026年1-3月期で10.0%でした。
上げ方は分子と分母の2つしかない
在庫回転率は、分子の売上高を増やすか、分母の平均在庫を減らすかでしか上がりません。ここで順序が決まります。
- 分子=売上高:受注と生産計画で決まります。営業と生産管理をまたぐ話になり、工場の在庫担当だけでは動かせません。
- 分母=平均在庫:発注量、生産ロット、滞留品の処分などで動きます。記録と現物を確認すれば、発注条件や生産計画などの制約を踏まえて、見直し可能な品目を絞り込めます。
一般に、工場内で短期に着手しやすいのは平均在庫の見直しです。分子を増やす取り組みには、受注の獲得や、受注に対して生産能力が不足している場合の能力増強などがあります。決めてから数字に出るまでに、四半期をまたぐことも珍しくありません。ただし受注残、生産能力、調達条件によっては、売上高側の施策を優先する場合もあります。
順序を逆にすると、話が止まります。売上を増やす計画は工場だけでは決まらないからです。分母側は、工場が発注方法や滞留品を確認するところから着手しやすい領域になります。ただし、発注条件の変更や在庫の処分、安全在庫の見直しは、購買・営業・経理・生産計画など必要な担当者と決定します。

ただし、分母を一律に削るやり方は勧められません。欠品や段取り替えの増加という副作用が出ます。下限と上限の幅で在庫水準を決める考え方は適正在庫の求め方で整理しています。
棚卸資産を3つに分けて、どこが膨らんでいるかを見る
棚卸資産は3つの区分に分かれ、どこが膨らんでいるかで打ち手が変わります。財務省「四半期別法人企業統計調査」は、棚卸資産を「製品又は商品」「仕掛品」「原材料・貯蔵品」の合計として集計しています。

3つの区分は、同じ在庫でもお金が止まっている場所が違います。実務では次のように切り分けてください。製品は完成後に販売・出荷を待つもの、商品は仕入れて販売するものです。仕掛品は製造工程の途中にあるもの、原材料・貯蔵品は生産に使う材料や貯蔵品を指します。これは財務省の3区分を確認業務に当てはめた、本記事での整理です。
どの区分に寄っているかで、疑う先も変わります。製品又は商品が多ければ販売・需要予測・生産計画、仕掛品が多ければ工程条件、原材料・貯蔵品が多ければ発注条件や生産計画を、原因の候補として確認します。金額の合計だけを見ていると、この切り分けができません。
棚卸資産の内訳(全産業・2026年1-3月期末)
※ 全産業の数値であり、製造業単独の内訳ではない
データを表で見る
←→ 横にスクロールできます
| 区分 | 金額(億円) |
|---|---|
| 製品又は商品 | 865,896 |
| 仕掛品 | 455,544 |
| 原材料・貯蔵品 | 315,313 |
全産業では、棚卸資産の半分以上が製品又は商品です。自社の内訳がこれと同じとは限りません。まず直近の棚卸表を3区分で足し合わせ、どこに寄っているかを確かめてください。
区分ごとに打ち手を選ぶ
区分が決まれば、疑う先も聞く相手も絞れます。全品目を一度に見直す必要はありません。まず動いていない品目から手を付けます。
←→ 横にスクロールできます
| 膨らんでいる区分 | 疑うこと | 確認する記録 | 相談する相手 |
|---|---|---|---|
| 製品又は商品 | 売れ残り、内示に対する作りすぎ | 最終出庫日、受注残 | 営業、生産管理 |
| 仕掛品 | 工程の詰まり、ロットの大きさ | 工程別の滞留数、段取り替え回数 | 製造、生産技術 |
| 原材料・貯蔵品 | まとめ買い、最低発注数量、廃番品 | 発注履歴、入出庫台帳 | 購買 |
仕掛品が多い場合だけは、扱いが少し違います。工程の途中にある量は、在庫のルールではなく工程の流れに左右されるからです。発注ルールの見直しだけでは仕掛品が減らないことが多いため、段取り替え、ロット、生産投入量、工程間の能力差など、生産側の条件を優先して確認してください。
最初に見るのは、その品目が最後に動いた日です。製品又は商品と原材料・貯蔵品では最終出庫日や最終使用日を、仕掛品では工程への投入日時や最終加工日時を確認します。長く動いていない品目を抽出し、その中から在庫金額の大きいものを優先して対応すると、今後の平均在庫を効率よく下げやすくなります。判定の基準と処分の考え方は滞留在庫対策で扱っています。
品目数が多い工場では、金額の大きい品目から絞ってください。仕分けのやり方はABC分析による在庫管理で整理しています。
数字を出す前にそろえること
計算に入る前に、3つの前提をそろえてください。ここがずれていると、改善したのか帳簿が動いただけなのか判別できません。
- 平均在庫の取り方:期首と期末の平均を使うのか、月末残高の12か月平均を使うのかを決めます。財務省の回転期間は期首・期末平均です。
- 売上高と在庫の集計条件:棚卸資産回転率では、対象期間の売上高と、その期間に対応する平均在庫を使います。財務省の在庫率は、四半期末の棚卸資産を四半期売上高の4倍で割ります。異なる指標の式を混ぜないでください。
- 比べる相手:自社の過去の数字が最初の比較対象です。次に業種の基準データを見ます。
2つ目と3つ目より、1つ目でつまずくことが多くあります。期末の残高だけで計算すると、決算前に発注を止めた月の数字が実力より良く見えるからです。平均を取るのは、その揺れをならすためです。月末残高が残っているなら、12か月の平均のほうが期中の変動を反映します。なお月末残高の平均を使う方法は期中変動をならすための本記事独自の整理であり、財務省の回転期間の算式は期首・期末平均です。
棚卸表の数字そのものが合っていないと、この計算は成り立ちません。帳簿と現物が合わない場合は、切り分けの手順を棚卸差異の原因にまとめています。
経済産業省の「ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)」では、企業の財務面を6つの指標で確認できます。無償のExcelシートに貸借対照表と損益計算書の数字を転記すると、指標が自動で算出されます。
このうち効率性の指標は、売上債権・棚卸資産・買入債務をまとめて見る営業運転資本回転期間です。棚卸資産回転率そのものの業種基準ではないため、自社の在庫回転率は過去数期との比較を基本とし、ロカベンは運転資本全体の比較に使ってください。比べる相手を先に決めてから計算に入ります。
よくある質問
在庫回転率は何回以上あれば合格ですか
一律の合格ラインは、確認した公的資料の範囲では見当たりませんでした。まず自社の過去数期と、同じ式・同じ集計条件で比較してください。ローカルベンチマークでは営業運転資本回転期間を業種・規模別に評価できますが、棚卸資産回転率そのものの基準ではありません。
在庫回転率の分子には、売上高と売上原価のどちらを使いますか
中小機構と財務省が示す式は、いずれも売上高を使います。社内で原価ベースの式を使う場合は、比較する相手も同じ式にそろえてください。式が違えば数字も変わります。
在庫を減らすと欠品が増えないでしょうか
全品目を一律に削れば、欠品が起こり得ます。最終出庫日が古い品目を候補として抽出したうえで、今後の需要、調達リードタイム、代替可否、欠品時の影響を確認して削減対象を決めてください。安全在庫の水準を変える場合は、生産計画や購買の担当者と判断します。
まとめ
- 在庫回転率は「売上高 ÷ 平均在庫」で出す。回転期間・在庫率とは分母が違うので、式をそろえてから比べる
- 上げ方は分子を増やすか分母を減らすかの2つ。自社で短期に動かせる側から着手する
- 棚卸資産を製品又は商品・仕掛品・原材料および貯蔵品の3区分に分け、膨らんでいる区分から着手する
- 各区分で最終出庫日・最終使用日・工程滞留日数を確認し、長く動いていない品目から調べる
- 在庫回転率は自社の過去と同じ条件で比べる。ローカルベンチマークは、在庫だけでなく売上債権と買入債務を含む営業運転資本回転期間の比較に使う
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。