安全在庫とは、需要と納期のばらつきに備えて、平常時に使う分とは別に上乗せして持っておく在庫のことです。欠品して生産が止まることを避けるための、いわば保険にあたります。
算式にはいくつかの型があります。ここでは、調達期間と発注間隔を固定できる場合に、需要のばらつきから求める安全係数 × 使用量のばらつき × √(調達期間+発注間隔)を扱います。
つまずくのは式そのものではなく、3つの数字をどこから取るかです。
この記事では、式と計算例、3つの数字の取り方、公的統計で見た需要のばらつき、金額への直し方、見直す頻度の順にまとめます。
計算式は「安全係数 × ばらつき × √(調達期間+発注間隔)」
安全在庫は、欠品をどこまで許すかを表す係数に、使用量のばらつきと、在庫が補充されるまでの期間を掛け合わせて求めます。
標準偏差〈ひょうじゅんへんさ〉は、日々の使用量が平均からどれだけ散らばっているかを表す数字です。
調達期間は発注してから入荷するまでの日数です。発注間隔は、定期的に在庫を確認して発注を判断する間隔を指します。
決まった間隔で発注する方式では、この2つを足した期間の需要の振れに備えます。この期間を保護期間と呼びます。
例として、1日の使用量の標準偏差が20個、調達期間が9日、発注間隔が1日、安全係数を1.65とします。1.65×20×√10で約104.4個です。
端数を切り上げた最低数量は105個です。さらに実際の発注単位に合わせて切り上げます。10個単位なら110個です。
3つの数字はどこから取るか
使用量と調達期間は社内の実績から取り、安全係数は欠品したときの影響と、許容するリスクから方針として決めます。記録が足りない品目は、まず実績を集めるところから始まります。
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| 数字 | 取り出す元 | 決め方の目安 |
|---|---|---|
| 安全係数 | 欠品をどこまで許すかの方針 | 需要が予測値を安全在庫の分だけ上回る確率を5%と置くなら約1.65、1%なら約2.33 |
| 使用量の標準偏差 | 出庫記録(直近12か月の日別) | 季節変動を一巡させる期間で取る |
| 調達期間・発注間隔 | 発注実績と仕入先への確認 | 振れが小さければ代表値。遅れが多い品目は別の算式へ |
安全係数は、保護期間の需要が予測値を安全在庫の分だけ上回る確率を、正規分布の片側確率として置いた値です。5%と置くなら約1.65、1%なら約2.33です。
これは欠品する数量の割合を5%や1%にするという意味ではありません。5%から1%へ下げると係数は約1.4倍になり、安全在庫も同じだけ増えます。
ほかの条件が同じなら、係数を上げると需要の振れによる欠品は減り、持つ在庫は増えます。どちらを取るかは品目ごとに変わります。
期間を日数で入れるなら、標準偏差も1日あたりの使用量から出します。月別の標準偏差をそのまま入れると単位が合わず、結果が大きくずれます。
調達期間の振れが小さい品目なら、代表となる日数を置けます。
遅れが繰り返し起きる仕入先では、この式に長めの日数を入れるだけでは欠品の確率を管理しきれません。調達期間のばらつきを含む算式か、実績にもとづく試算が必要になります。

ここまでの式は、決まった間隔で在庫を確認して発注する方式を想定しています。
在庫が一定量まで減った時点で発注する発注点方式では、需要の振れだけを見る場合、備える期間は調達期間だけです。発注点は、調達期間中に使う見込み量に安全在庫を足したものです。
発注点の考え方と品目の仕分けは、ABC分析で在庫管理を仕分ける。金額と停止影響で見る分類基準と棚卸しの実務で扱っています。
需要はどれくらいばらつくのか、公的統計で見る
式の中で最も実感しにくいのが、使用量のばらつきです。まず産業全体の動きで、集計した数字にも振れがあることを確かめておきます。
経済産業省の鉱工業指数によると、鉱工業の出荷指数(季節調整済・2020年=100)は、2025年4月から2026年6月までの15か月で98.4から102.1の間を動きました。
この15か月を標本として計算すると、平均は100.1、標本標準偏差は1.1です。平均に対する散らばりの割合は約1%になります。
鉱工業の出荷指数の推移(季節調整済・2020年=100)
※ 産業全体を均した月次指数であり、個別品目の振れはこれより大きくなることがある
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| 年月 | 出荷指数 |
|---|---|
| 2025年4月 | 99.2 |
| 2025年5月 | 100.4 |
| 2025年6月 | 100.3 |
| 2025年7月 | 98.8 |
| 2025年8月 | 98.9 |
| 2025年9月 | 99.6 |
| 2025年10月 | 100.5 |
| 2025年11月 | 99.5 |
| 2025年12月 | 98.4 |
| 2026年1月 | 102.1 |
| 2026年2月 | 100.6 |
| 2026年3月 | 99.7 |
| 2026年4月 | 101.0 |
| 2026年5月 | 101.5 |
| 2026年6月 | 101.1 |
鉱工業指数は鉱業も含む集計値で、業種ごとの動きが互いに打ち消し合います。そのため個別の品目や1つの工場の振れは、この約1%より大きくなることがあります。
だからこそ、自社の出庫記録から標準偏差を出す必要があります。
月次の集計指数と個別品目の日別使用量では、対象も時間の単位も違います。約1%を自社品目の基準値には使えません。
安全在庫を金額に直して確かめる
数量で決めた安全在庫は、金額に直してから判断します。実際に買い足したり作り足したりすれば、その分だけ在庫に投じる資金が増えるためです。
財務省の年次別法人企業統計調査(令和6年度)によると、全産業の在庫率は9.6%でした。在庫率は、期末の棚卸資産を売上高で割った割合です。
9.6%を日数に直すと、年間売上高の約35日分にあたります。ただしこれは期末時点の棚卸資産全体の概算で、安全在庫の日数でも、製造業だけの平均でもありません。
在庫率の推移(全産業)
※ 金融業・保険業を除く
データを表で見る
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| 年度 | 在庫率(%) |
|---|---|
| 令和2年度 | 8.8 |
| 令和3年度 | 9.2 |
| 令和4年度 | 9.5 |
| 令和5年度 | 9.5 |
| 令和6年度 | 9.6 |
在庫率は令和2年度の8.8%から令和6年度の9.6%へ、4年間で0.8ポイント上がりました。ただし上昇の理由が意図した積み増しなのか、売上高や価格、業種構成の変化なのかは、この統計だけでは分かりません。
自社の金額感は、年間の売上高から日数で割り出せます。年商10億円の工場なら、売上高の1日分は約274万円です。
安全在庫を3日分積み増したときの規模感は、売上高ベースで約822万円です。ただしこれは在庫資産の増加額ではありません。
実際の増加額は、増やす数量に材料費や製造原価などの評価単価を掛けて求めます。係数の違いが金額にどう効くかは、品目ごとに確かめます。
標準偏差、保護期間、評価単価の3つが分かれば計算できます。
見直す頻度と、手間の配分
安全在庫は一度決めて終わりではありません。需要の水準、ばらつき、調達期間のいずれかが変われば、計算し直します。
需要と調達が安定している品目なら、棚卸しに合わせて年1〜2回確認する方法が一案です。変化が大きい品目は、月次など短い間隔で見直します。
仕入先の変更や、生産品目の入れ替えがあった品目は、そのつど個別に直します。
ただし、全品目に同じ手間はかけられません。品目数が数千に及ぶ工場では、計算そのものが続かなくなります。
- 金額が大きい、または止まると生産に響く品目:個別に標準偏差を出して安全在庫を明示する
- 需要と調達が安定している品目:発注点を決め置き、例外が出たときだけ見直す
- 単価が低く動きの少ない品目:目視で分かる量を置き、計算はしない
これは、ABC分析のように重要度で管理の手間を配分する考え方です。絞れば、重要な品目のデータ確認や見直しに工数を振り向けやすくなります。
動かない在庫が積み上がっている場合は、安全在庫の計算より先に処分と発注ルールの見直しが要ります。手順は滞留在庫対策。判定基準から処分・転用・値引きの判断、発注ルールの見直しまでにまとめています。
誰に聞くかも決めておきます。出庫実績は生産管理、調達期間は購買、金額の評価は経理の担当者が持っています。在庫のほかの論点は在庫・物流のテーマページにまとめています。
よくある質問
安全係数はどの値を選べばよいですか
欠品したときの影響から決めます。止まると生産全体が止まる品目は高く、代替が利く品目は低く置きます。
全品目に同じ係数を当てると、重要な品目が薄く、そうでない品目が厚くなります。品目の区分ごとに係数を変える方法が現実的です。
安全在庫と適正在庫は同じものですか
別のものです。安全在庫はばらつきに備える上乗せ分だけを指し、適正在庫は通常使う分も含めた在庫全体の水準を指します。
安全在庫は前提に合う算式で目安を出せますが、適正在庫は通常使う分、保管費、欠品の影響なども含めた判断になります。
計算した安全在庫を下回ってしまいました
手持ちの在庫が安全在庫の水準を一時的に下回ることと、実際に欠品することは同じではありません。残数があれば出庫はできます。
ただし、入荷までの需要を賄えない回数が想定より多い場合は、標準偏差や調達期間、発注間隔の置き方が実態と合っていない可能性があります。直近の実績で計算し直します。
まとめ
- 算式には型が複数ある。決まった間隔で発注する方式なら「安全係数 × 1日の使用量の標準偏差 × √(調達期間+発注間隔)」。発注点方式では備える期間は調達期間だけになる
- 使用量と調達期間は実績から、安全係数は方針から決める。保護期間の需要が予測値を安全在庫の分だけ上回る確率を5%と置くなら約1.65、1%なら約2.33になる
- 鉱工業の出荷指数は15か月で平均100.1・標本標準偏差1.1。鉱業を含む集計値なので、自社の値は出庫記録から出す
- 全産業の在庫率は令和6年度で9.6%=年間売上高の約35日分。年商10億円なら売上の1日分は約274万円だが、在庫の増加額は原価で評価して求める
- 安定品目は棚卸しに合わせた確認を一案とし、変化の大きい品目は月次や変更時に見直す。金額と停止影響の大きい品目に手間を寄せる
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。