相見積もり(あいみつもり)は、複数の会社に同じ条件で見積書を出してもらい、金額や納期を比べる方法です。工場では材料の購入、外注加工、修繕工事などに使います。発注価格や依頼先を選んだ理由を社内で説明したいときは、以下の手順を社内ルールづくりの参考にしてください。
手順は、自社の価格基準を先に決め、複数社へ同じ条件を示し、最安の会社を選ばない場合は理由を残す、という3段階です。国が契約相手を選び価格を管理する会計法令の考え方を、民間工場向けに整理しています。
国の規則が求める内容と、工場の購買で参考にできる進め方を分けて説明します。最後に、価格交渉で取適法の禁止行為に当たらないかを確認します。

見積りの依頼前に自社の価格基準を作る
依頼先を選ぶ前に、自社が妥当と考える価格の基準を作ります。予決令第99条の5は、随意契約によろうとするときに、あらかじめ予定価格を定めることを求めています。
予算決算及び会計令(予決令)は、国の予算・決算・契約の手続きを定めた勅令です。その第99条の5は、随意契約によろうとするときは、あらかじめ第80条の規定に準じて予定価格を定めなければならない、と定めています。随意契約とは、入札によらず相手を選んで結ぶ契約のことです。予定価格とは、その契約について発注する側が先に置く価格の基準を指します。
民間の購買で参考にするのは、依頼前に価格基準を作るという順序です。過去の実績、材料単価、必要工数などから、自社が妥当と考える金額を算定します。
見積りを3枚集めてから高いか安いかを考えると、集めた金額そのものが判断基準になってしまいます。手元の数字から先に基準を作れば、全社が高いのか、1社だけ高いのかを分けて確認できます。
この基準は、購買担当だけで決めきらないほうが精度が上がります。仕様を決めた設計、使う現場、原価を持つ経理のどこに数字があるかを先に確かめてください。
依頼社数の目安と1社しか取れない場合を整理する
社数についても条文があります。予決令第99条の6(見積書の徴取)は、国が随意契約によろうとするときについて、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない、と定めています。2者以上を原則的な目安としつつ、「なるべく」という限定があるため、例外を許さない絶対的な下限ではありません。
実務では、特殊な仕様で対応できる会社が1社に限られる、修理する設備のメーカーが決まっている、といった場面が出てきます。1社からしか取得できないときは、その理由を記録しておく方法が考えられます。社内の統制として、あとから同じ判断を再現できる形にしておくためです。
3社を慣例とする職場もありますが、社数が増えるほど自社の説明と相手の見積作成に手間がかかります。依頼先を増やす前に、各社の比較条件がそろっているかを確認してください。
仕様・数量・納期・費用の範囲を全社でそろえる
各社に示す仕様・数量・納期・費用の範囲など、価格に影響する条件をそろえます。共通の依頼書を使えば、条件の抜けを防ぎやすくなります。仕様を各社の解釈に任せると、金額の差が価格設定によるのか、仕様の違いによるのかを区別できません。
依頼書でそろえたい項目と、条件が抜けた場合の問題を次の表に示します。
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| 依頼書に入れておきたい主な項目 | 抜けていると起きること |
|---|---|
| 数量・仕様・材質・図面番号 | 各社が別の仕様で見積り、単価をそのまま比べられない |
| 納期・納入場所・荷姿 | 運賃や小分けの費用を含む社と含まない社が混ざる |
| 提出期限と、こちらの回答予定日 | 提出が揃わず、先に出した社だけ後から条件を足される |
| 支払条件(締め日・支払期日・支払手段) | 代金を受け取る時期が各社で違うまま金額だけを比べる |
支払条件を依頼書に書いておく効果はもう一つあります。相手が中小企業で、自社が製造委託などをする側に当たる場合、代金の支払期日には法律の制限がかかります。金額を比べる前に、自社の支払条件がその制限に収まっているかを確かめておくほうが早い。期日の数え方は下請法の支払期日は?受領日から60日の数え方と、取適法で変わった手形払いで整理しています。
発注金額に応じて社数と承認者を決める
すべての発注に同じ手間をかける必要はありません。国の規則も、予定価格が一定額以下の場合を、競争入札によらず随意契約とすることができる区分として挙げています。ただし、随意契約にした場合の予定価格や見積徴取に関する手続は別に定められています。
予決令第99条が挙げる金額は次のとおりです(2026年8月1日施行の条文・同年9月3日確認)。
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| 契約の種類 | 随意契約にできる予定価格の上限 |
|---|---|
| 工事または製造をさせるとき | 400万円 |
| 財産を買い入れるとき | 300万円 |
| 物件を借り入れるとき | 年額または総額で150万円 |
| 上記以外の契約(役務など) | 200万円 |
この金額をそのまま社内規程に写す必要はありません。使えるのは考え方のほうです。金額帯を先に決めて、帯ごとに「何社から取るか」「誰が承認するか」を固定しておくと、案件ごとに迷わなくなります。年間の発注をこの帯で並べると、手間をかけるべき発注がどれかも見えます。まとめ買いで単価を下げる判断は発注ロットは大きいほど得か?まとめ買いの損益を試算する考え方で扱っています。
なお、法令上の金額は改正されます。社内規程や判断資料へ引用するときは、その時点の現行法令を確認してください。
最安の会社を選ばない理由を事実で残す
相見積もりでは、価格以外の条件も確かめて依頼先を選びます。国の規則にも、価格順に決めない場合の条件が定められています。
会計法第29条の6第1項は、競争に付する場合、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高または最低の価格を申し込んだ者を相手方とすることを原則としています。
同項のただし書には2つの例外があります。一つは、その価格では契約内容に合った履行がされないおそれがあると認められる場合です。もう一つは、その者との契約が公正な取引の秩序を乱すおそれがあり、著しく不適当と認められる場合です。
その場合は、国の支払の原因となる契約のうち政令で定めるものについて、政令の定めるところにより、予定価格の制限の範囲内で申し込んだ他の者のうち最低の価格の者を相手方にできるとしています。
同条第2項は、財産の交換など性質や目的から価格順では決めがたい契約について、価格その他の条件が最も有利なものを選べるとしています。これは国の競争契約における規定で、民間企業が相見積もりで最安値以外の会社を選ぶ条件を直接定めたものではありません。
ここから工場の購買が借りられるのは、最安値の見積を採用しないときは、価格以外のどの評価項目に差があり、どの客観的事実を根拠に選定したのかを残すという型です。「付き合いが長いから」「品質が良さそうだから」だけでは、次に同じ判断をするときの根拠を再現しにくくなります。過去の納入不良の件数、立ち会い検査の実績、対応できる納期など、記録に残っている事実を根拠にしてください。
金額の順位と選定結果が違う理由を書面に残すと、社内承認が止まった際も説明しやすくなります。後から繰り返し理由を確認される回数を減らすための記録です。
価格交渉では買いたたきと一方的な決定を確認する
今回確認した取適法の2規定と会計法令では、相見積もり自体を直接禁止する文言は確認されていません。ただし、集めた金額をどう使って代金を決めるかには、禁止行為に関する規定があります。
取適法は、中小受託取引適正化法の略称です。旧・下請代金支払遅延等防止法が改正され、2026年1月1日に施行されました。ここでは、性質の異なる2つの禁止行為を分けて確認します。
第一は買いたたきです。第5条第1項第5号は、同種または類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い代金の額を、不当に定めることを禁じています。
第二は、協議・説明を欠いた一方的な代金決定です。同条第2項第4号は、費用の変動その他の事情が生じ、相手が代金額の協議を求めた場合について、次の2つを禁じています。
- 協議に応じずに一方的に代金額を決定すること
- 協議には応じても、相手が求めた事項について必要な説明・情報の提供をせずに一方的に代金額を決定すること
他社の見積額を示した事実だけで、交渉方法の適否は決まりません。引用した条文に照らして、次の3つを具体的な事情とともに確認します。
- 同種または類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い額を、不当に定めていないか
- 協議を求められた場合に、協議に応じずに一方的に額を決めていないか
- 協議では相手が求めた事項について必要な説明・情報の提供をせずに、一方的に額を決めていないか
実際にどの禁止行為で指摘が多いのかは、公正取引委員会が毎年公表しています。
下請法の実体規定違反の類型別件数(令和6年度・上位5類型)
※ 実体規定違反の合計は7,177件
データを表で見る
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| 違反行為の類型 | 件数 |
|---|---|
| 支払遅延 | 4,094 |
| 代金の減額 | 1,263 |
| 買いたたき | 852 |
| 利益提供要請 | 408 |
| 割引困難手形 | 309 |
公表件数では、価格の決め方そのものを指す買いたたきの852件よりも、支払遅延の4,094件と代金の減額の1,263件のほうが多くなっています。見積時の価格交渉だけでなく、決定した支払期日や代金を守る管理も要ります。
値上げを求められた側の対応は値上げ要請にどう対応する?取適法の確認から回答・記録までの手順にまとめています。購買の他のテーマは購買・調達コストのテーマページから探せます。
よくある質問
何社から相見積もりを取るか
法令で民間企業の社数を定めたものは、確認した範囲では見当たりません。国の随意契約について予決令第99条の6が「なるべく二人以上」としているのが、公的な文書で確認できる目安です。社数を増やすと自社の説明工数と相手の作成工数が両方増えます。まず条件を揃えることを優先し、金額帯ごとに社数を固定しておくのが実務的です。
他社の見積額を示して値下げを求めてもよいか
今回確認した取適法第5条第1項第5号・第2項第4号と、引用した会計法令には、他社の見積額を交渉材料にする行為そのものを直接禁止する文言はありません。それだけで個別の交渉方法が適法と決まるわけではありません。
取適法の対象取引では、買いたたきに当たらないかを確認します。あわせて、協議を求められた場合に、協議に応じずに一方的に額を決めていないか、または必要な説明・情報の提供をせずに一方的に額を決めていないかを、具体的な事情に即して確認する必要があります。自社の取引が取適法の対象となるかは、取引類型と、資本金・従業員数等の事業者要件で判断してください。
発注しなかった会社にはどう連絡するか
確認した範囲では、断りの連絡を義務付ける規定は見当たりません。実務上は、依頼書に提出期限と自社の回答予定日を書けば、いつまでに何を伝えるかを先に決められます。次回の見積依頼の精度にも関わる確認です。
価格基準・共通条件・選定理由を記録する
- 見積を頼む前に、自社側の価格基準を先に決める。予決令第99条の5は、随意契約であらかじめ予定価格を定めることを求めている
- 社数の目安は「なるべく2者以上」(予決令第99条の6)。1社しか取れないときは、その理由を記録に残す
- 数量・仕様・納期・支払条件など、価格に影響する条件を全社で揃える。揃っていない見積は金額を比べられない
- 金額帯ごとに「何社から取るか」「誰が承認するか」を固定し、案件ごとに迷わないようにする
- 最安を選ばないときは、差が出た評価項目と、判断の根拠になった客観的な事実を書き残す
- 同種または類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い代金を不当に定めることや、協議を求められた場合に、協議に応じず、または必要な説明・情報の提供をせず、一方的に代金額を決定することは、取適法第5条が禁じている
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。