実務記事 / 46

相見積もりはどう取る?頼む前に決める価格基準と、最安以外を選ぶときの記録

相見積もりの取り方を、国の会計法令の考え方から引き直します。見積を頼む前に決める価格基準、なるべく2者以上という目安、最安以外を選ぶときの記録まで。

相見積もりの記事のサムネイル。高さの違う3本の棒に、一定の高さの横線が1本引かれている図
46調達・材料費

相見積もり(あいみつもり)とは、同じ条件を複数の会社に示して見積書を出してもらい、金額や納期を並べて比べることです。工場の購買では、材料・外注加工・修繕工事のどれでも使います。金額の大きい発注を1社だけに依頼していて、価格と選定理由を社内で説明できる仕組みがないなら、以下の手順を社内ルールづくりの参考にできます。

ここで示す順序は「頼む前に自社の価格基準を決める」「複数社に同じ条件で出す」「最安を選ばないときは理由を残す」の3段階です。国が契約相手を選び、価格を管理するために使っている会計法令の考え方を、民間工場向けに組み直したものです。

以下では、国の規則の条文を工場の購買の手順に引き直し、最後に、安さの追い方が法律の線を越えるのはどこかを整理します。

相見積もりの手順例を3つの箱で示した流れ図。左から、自社の価格基準を決める、同じ条件で複数社へ依頼、選定理由を記録する、と矢印でつながっている
図1 国の会計法令を参考に、民間工場向けに整理した相見積もりの手順例

見積を頼む前に決めるのは、自社側の価格基準

相見積もりの最初の作業は、依頼先を選ぶことではありません。自社がいくらを妥当と見るかを、見積を頼む前に自分で決めることです。国の会計の規則は、この順序を明文で置いています。

予算決算及び会計令(予決令)は、国の予算・決算・契約の手続きを定めた勅令です。その第99条の5は、随意契約によろうとするときは、あらかじめ第80条の規定に準じて予定価格を定めなければならない、と定めています。随意契約とは、入札によらず相手を選んで結ぶ契約のことです。予定価格とは、その契約について発注する側が先に置く価格の基準を指します。

民間の購買では、これを次の意味で使います。過去の実績、材料単価、必要工数などから、見積を依頼する前に算定しておく自社側の価格基準です。

順序は逆ではありません。見積を3枚集めてから「思ったより高い」と気づく買い方では、集めた金額そのものが判断の基準になってしまいます。手元の数字から先に基準を作っておくと、全社が高いのか、1社だけ高いのかを切り分けられます。

この基準は、購買担当だけで決めきらないほうが精度が上がります。仕様を決めた設計、使う現場、原価を持つ経理のどこに数字があるかを先に確かめてください。

何社に頼むか。国の規則は「なるべく2者以上」としている

社数についても条文があります。予決令第99条の6(見積書の徴取)は、国が随意契約によろうとするときについて、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない、と定めています。2者以上を原則的な目安としつつ、「なるべく」という限定があるため、例外を許さない絶対的な下限ではありません。

実務では、特殊な仕様で対応できる会社が1社に限られる、修理する設備のメーカーが決まっている、といった場面が出てきます。1社からしか取得できないときは、その理由を記録しておく方法が考えられます。社内の統制として、あとから同じ判断を再現できる形にしておくためです。

3社が慣例になっている職場は多いものの、社数を増やすほど、自社が仕様を説明する手間と、相手が見積を作る手間が増えます。増やす前に、次の節の「条件を揃える」ができているかを先に見てください。

条件を揃える。揃っていない見積は比較にならない

相見積もりで重要なのは、各社に示す仕様・数量・納期・費用の範囲など、価格に影響する条件を揃えることです。共通の依頼書を使うと、条件の抜けを防ぎやすくなります。仕様が各社の解釈に任されていると、返ってきた金額の差が、値付けの差なのか仕様の差なのか分かりません。

依頼書に入れておきたい項目と、抜けたときに起きることを並べます。

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依頼書に入れておきたい主な項目抜けていると起きること
数量・仕様・材質・図面番号各社が別の仕様で見積り、単価をそのまま比べられない
納期・納入場所・荷姿運賃や小分けの費用を含む社と含まない社が混ざる
提出期限と、こちらの回答予定日提出が揃わず、先に出した社だけ後から条件を足される
支払条件(締め日・支払期日・支払手段)代金を受け取る時期が各社で違うまま金額だけを比べる

支払条件を依頼書に書いておく効果はもう一つあります。相手が中小企業で、自社が製造委託などをする側に当たる場合、代金の支払期日には法律の制限がかかります。金額を比べる前に、自社の支払条件がその制限に収まっているかを確かめておくほうが早い。期日の数え方は下請法の支払期日は?受領日から60日の数え方と、取適法で変わった手形払いで整理しています。

金額の大きさで、手続きの重さを変える

すべての発注に同じ手間をかける必要はありません。国の規則も、予定価格が一定額以下の場合を、競争入札によらず随意契約とすることができる区分として挙げています。ただし、随意契約にした場合の予定価格や見積徴取に関する手続は別に定められています。

予決令第99条が挙げる金額は次のとおりです(2026年8月1日施行の条文・同年9月3日確認)。

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契約の種類随意契約にできる予定価格の上限
工事または製造をさせるとき400万円
財産を買い入れるとき300万円
物件を借り入れるとき年額または総額で150万円
上記以外の契約(役務など)200万円

この金額をそのまま社内規程に写す必要はありません。使えるのは考え方のほうです。金額帯を先に決めて、帯ごとに「何社から取るか」「誰が承認するか」を固定しておくと、案件ごとに迷わなくなります。年間の発注をこの帯で並べると、手間をかけるべき発注がどれかも見えます。まとめ買いで単価を下げる判断は発注ロットは大きいほど得か?まとめ買いの損益を試算する考え方で扱っています。

なお、法令上の金額は改正されます。社内規程や判断資料へ引用するときは、その時点の現行法令を確認してください。

いちばん安い社を選ばないときは、理由を残す

相見積もりは最安値を探す作業ではありません。国の規則も、価格順で決めない場合を条文で用意しています。

会計法第29条の6第1項は、競争に付する場合、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高または最低の価格を申し込んだ者を相手方とすることを原則としています。

そのうえで、同項のただし書が2つの例外を置いています。その価格では契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められるとき。もう一つは、その者と契約することが公正な取引の秩序を乱すおそれがあって著しく不適当と認められるときです。

その場合は、国の支払の原因となる契約のうち政令で定めるものについて、政令の定めるところにより、予定価格の制限の範囲内で申し込んだ他の者のうち最低の価格の者を相手方にできるとしています。

同条第2項は、財産の交換など性質や目的から価格順では決めがたい契約について、価格その他の条件が最も有利なものを選べるとしています。これは国の競争契約における規定で、民間企業が相見積もりで最安値以外の会社を選ぶ条件を直接定めたものではありません。

ここから工場の購買が借りられるのは、最安値の見積を採用しないときは、価格以外のどの評価項目に差があり、どの客観的事実を根拠に選定したのかを残すという型です。「付き合いが長いから」「品質が良さそうだから」だけでは、次に同じ判断をするときの根拠を再現しにくくなります。過去の納入不良の件数、立ち会い検査の実績、対応できる納期など、記録に残っている事実を根拠にしてください。

選定理由の書き方= 各社の金額 + 差が出た評価項目 + 判断の根拠となる仕様・実績・条件

この記録は、社内で承認が止まったときにも効きます。金額の順位と選定結果が食い違う理由が紙に残っていれば、後から説明を求められる回数が減ります。

安さの追い方が線を越えるのはどこか

今回確認した取適法の2規定と会計法令には、相見積もりを取る行為自体を直接禁止する文言はありません。線が引かれているのは、集めた金額の使い方のほうです。

2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法。旧・下請代金支払遅延等防止法)が、性格の違う2つの禁止行為を置いています。分けて考えてください。

第一は買いたたきです。第5条第1項第5号は、同種または類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い代金の額を、不当に定めることを禁じています。

第二は、協議・説明を欠いた一方的な代金決定です。同条第2項第4号は、費用の変動その他の事情が生じ、相手が代金額の協議を求めた場合について、次の2つを禁じています。

  • 協議に応じずに一方的に代金額を決定すること
  • 協議には応じても、相手が求めた事項について必要な説明・情報の提供をせずに一方的に代金額を決定すること

他社の見積額を示したかどうかだけで適否が決まるわけではありません。条文から読み取れる確認点は3つです。

  • 同種または類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い額を、不当に定めていないか
  • 協議を求められた場合に、協議に応じずに一方的に額を決めていないか
  • 協議では相手が求めた事項について必要な説明・情報の提供をせずに、一方的に額を決めていないか

実際にどの禁止行為で指摘が多いのかは、公正取引委員会が毎年公表しています。

下請法の実体規定違反の類型別件数(令和6年度・上位5類型)

公正取引委員会が公表した実体規定違反7,177件の類型別内訳

出典:公正取引委員会「令和6年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」(2025年5月12日公表)

件数
下請法の実体規定違反の類型別件数(令和6年度・上位5類型)件数:支払遅延 4,094 件、代金の減額 1,263 件、買いたたき 852 件、割引困難手形 408 件、利益提供要請 309 件件数、支払遅延:4,094 件件数、代金の減額:1,263 件件数、買いたたき:852 件価格の決め方に関する類型件数、割引困難手形:408 件件数、利益提供要請:309 件

※ 実体規定違反の合計は7,177件

データを表で見る

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下請法の実体規定違反の類型別件数(令和6年度・上位5類型)
違反行為の類型件数
支払遅延4,094
代金の減額1,263
買いたたき852
割引困難手形408
利益提供要請309

公表件数では、価格の決め方そのものを指す買いたたきの852件よりも、支払遅延の4,094件と代金の減額の1,263件のほうが多くなっています。見積時の価格交渉だけでなく、決定した支払期日や代金を守る管理も要ります。

値上げを求められた側の対応は値上げ要請にどう対応する?取適法の確認から回答・記録までの手順にまとめています。購買の他のテーマは購買・調達コストのテーマページから探せます。

よくある質問

相見積もりは何社から取ればよいですか

法令で民間企業の社数を定めたものは、確認した範囲では見当たりません。国の随意契約について予決令第99条の6が「なるべく二人以上」としているのが、公的な文書で確認できる目安です。社数を増やすと自社の説明工数と相手の作成工数が両方増えます。まず条件を揃えることを優先し、金額帯ごとに社数を固定しておくのが実務的です。

他社の見積額を示して値下げを求めてもよいですか

今回確認した取適法第5条第1項第5号・第2項第4号と、引用した会計法令には、他社の見積額を交渉材料にする行為そのものを直接禁止する文言はありません。それだけで個別の交渉方法が適法と決まるわけではありません。

取適法の対象取引では、買いたたきに当たらないかを確認します。あわせて、協議を求められた場合に、協議に応じずに一方的に額を決めていないか、または必要な説明・情報の提供をせずに一方的に額を決めていないかを、具体的な事情に即して確認する必要があります。自社の取引が取適法の対象となるかは、取引類型と、資本金・従業員数等の事業者要件で判断してください。

見積を出してもらったのに発注しなかった会社へ、断りの連絡は必要ですか

連絡を義務づける規定は、確認した範囲では見当たりません。実務では、依頼書に提出期限とあわせて自社の回答予定日を書いておくと、いつまでに何を伝えるかが依頼の時点で決まります。次に同じ会社へ依頼するときの見積の精度にも関わる部分です。

補足:ここで示した3段階は、国の随意契約に関する予定価格・見積徴取の規定(予決令第99条の5・第99条の6)と、競争契約に関する相手方選定の規定(会計法第29条の6)という、適用場面の異なる制度から考え方を取り出し、民間工場向けに組み合わせた独自の手順例です。国の法令がこの3段階を一連の法定手順として定めているわけではありません。予決令と会計法は国の契約手続きを定めた法令で、民間企業の購買を直接縛るものでもありません。緊急の修理、互換性やメーカー指定など、相見積もりが適さない購買もあります。また、取適法について確認したのは第5条第1項第5号および第2項第4号の条文であり、個別の価格交渉の適否をこの2規定だけで判断できるという趣旨ではありません。実際の判断では、取引の具体的な事情と、公正取引委員会の最新の解釈・運用もあわせて確認してください。

まとめ

  • 見積を頼む前に、自社側の価格基準を先に決める。予決令第99条の5は、随意契約であらかじめ予定価格を定めることを求めている
  • 社数の目安は「なるべく2者以上」(予決令第99条の6)。1社しか取れないときは、その理由を記録に残す
  • 数量・仕様・納期・支払条件など、価格に影響する条件を全社で揃える。揃っていない見積は金額を比べられない
  • 金額帯ごとに「何社から取るか」「誰が承認するか」を固定し、案件ごとに迷わないようにする
  • 最安を選ばないときは、差が出た評価項目と、判断の根拠になった客観的な事実を書き残す
  • 同種または類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い代金を不当に定めることや、協議を求められた場合に、協議に応じず、または必要な説明・情報の提供をせず、一方的に代金額を決定することは、取適法第5条が禁じている
  • #購買
  • #調達
  • #取適法
  • #コスト削減

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株式会社恒電社 編集部

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