実務記事 / 40

製造業の労働生産性の測り方|1人当たり付加価値と現場指標の関係

労働生産性の定義と製造業の公的統計を確認し、自社で人数・時間を数える方法と現場改善とのつなぎ方を説明します。

「付加価値÷人」「製造業の生産性の測り方」の2行を大きく置き、左に上下2本の右上がりの折れ線を並べた記事サムネイル
40生産性・省人化

工場の生産性を測るときは、何を測る数字かを先にそろえる必要があります。この記事で扱う1人当たり労働生産性は、生み出した付加価値を人の数で割った値です。稼働率や不良率、設備総合効率を表すOEEとは、測る対象も計算式も異なります。

労働生産性の定義、製造業全体の実数、現場指標との関係を順に説明します。自社で計算する際に確認したい、付加価値の作り方と人員の数え方も整理します。

付加価値と人の数の定義をそろえる

2026年版ものづくり白書は、製造業の1人当たり名目労働生産性を、経済活動別付加価値の合計を就業者数で割った値と注記しています。計算式の分子は付加価値、分母は人の数です。

ここでいう付加価値は、内閣府の国民経済計算にある経済活動別の国内総生産です。就業者数は総務省の労働力調査から取っています。つまりこの数字は、国全体の統計を製造業という産業単位でまとめたものです。個々の工場の社内計算値を、そのまま単純合算した指標ではありません。

統計の生産性と自社の生産性は、計算に使う材料が違います。自社の数字を国の平均と並べる前に、分子と分母をそれぞれ何とするか、定義をそろえてください。

労働生産性には、産出量で測る物的労働生産性と、付加価値で測る付加価値労働生産性があります。ここで扱うのは後者のうち、付加価値を就業者数で割る「1人当たり名目労働生産性」です。

補足:付加価値の定義は統計ごとに違います。国民経済計算、法人企業統計、経済センサスはそれぞれ別の作り方をしています。自社の値を何かと比べるときは、比べたい統計の定義に合わせて計算してください。定義がずれたままでは、厳密な水準比較はできません。

製造業は全産業の1.2〜1.3倍で推移している

2026年版ものづくり白書の図では、2024年の製造業の1人当たり名目労働生産性は1,141万円、全産業は927万円でした。製造業が高い水準にあります。

1人当たり名目労働生産性の推移

製造業と全産業(2015〜2024年)

出典:経済産業省ほか「2026年版ものづくり白書」図110-4(内閣府「2024年度国民経済計算年次推計」、総務省「労働力調査」から経済産業省作成)

製造業全産業
1人当たり名目労働生産性の推移製造業:2015 1,060 万円/人、2016 1,065 万円/人、2017 1,080 万円/人、2018 1,088 万円/人、2019 1,074 万円/人、2020 1,043 万円/人、2021 1,080 万円/人、2022 1,055 万円/人、2023 1,138 万円/人、2024 1,141 万円/人。全産業:2015 853 万円/人、2016 857 万円/人、2017 861 万円/人、2018 848 万円/人、2019 844 万円/人、2020 824 万円/人、2021 850 万円/人、2022 862 万円/人、2023 906 万円/人、2024 927 万円/人製造業、2015:1,060 万円/人製造業、2016:1,065 万円/人製造業、2017:1,080 万円/人製造業、2018:1,088 万円/人製造業、2019:1,074 万円/人製造業、2020:1,043 万円/人製造業、2021:1,080 万円/人製造業、2022:1,055 万円/人製造業、2023:1,138 万円/人製造業、2024:1,141 万円/人全産業、2015:853 万円/人全産業、2016:857 万円/人全産業、2017:861 万円/人全産業、2018:848 万円/人全産業、2019:844 万円/人全産業、2020:824 万円/人全産業、2021:850 万円/人全産業、2022:862 万円/人全産業、2023:906 万円/人全産業、2024:927 万円/人
データを表で見る

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1人当たり名目労働生産性(万円/人)
年製造業全産業
20151,060853
20161,065857
20171,080861
20181,088848
20191,074844
20201,043824
20211,080850
20221,055862
20231,138906
20241,141927

この表から、まず製造業が全産業より高い水準を保っていることが分かります。白書も、製造業は全産業と比べて高い水準で推移していると説明しています。

第二に、伸び方は全産業と大きく変わりません。2015年から2024年までで製造業は1,060万円から1,141万円へ、率にすると約7.6%増えました。同じ期間の全産業は853万円から927万円で、約8.7%増です。水準の高さは維持していますが、両者の差に明確な拡大傾向があるとはいえません。

第三に、途中で落ち込んだ年があります。2020年は1,043万円まで下がり、2022年も前年の1,080万円から1,055万円へ低下しました。名目付加価値は景気や価格変動の影響を受け、就業者数も雇用情勢などによって変わるため、単年の増減だけで自社の努力を評価することはできません。

なお、ここで示した増加率は名目値によるもので、物価変動を除いた実質的な生産性の伸びを示すものではありません。

人員をどう数えるかで計算結果が変わる

自社で計算するときは、人を何人と数えるかを決める必要があります。付加価値が同じでも、分母に使う人数が違えば労働生産性の値は変わります。

財務省の法人企業統計調査では、従業員数を常用者の期中平均人員と当期中の臨時従業員の合計としています。臨時従業員を期中平均人数へ換算するときは、対象期間の総従事時間数を、常用者1人の同じ期間の平均労働時間数で割ります。

対象期間が1か月なら両方を1か月、年間なら両方を年間として計算します。分子と分母の期間をそろえることが必要です。

工場で分母を選ぶ際の用途と注意点を、次の表に整理します。

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分母の候補向いている場面注意すること
在籍人数年度単位で大づかみに見る残業や短時間勤務の差が消える
常用換算の人数パート・臨時が多い工場換算のルールを毎回そろえる
総労働時間時間短縮の効果を見る時間の記録が正確でないと使えない

派遣・請負の費用と人員の扱いは、採用する統計や算式によって異なります。比較対象の定義資料で確認してください。

工程の改善が付加価値や必要人数に表れたかを確かめる

設備総合効率は設備の稼働状況、タクトタイムは必要な生産ペースを把握する指標です。段取り時間やチョコ停(短時間の停止)は、工程内の時間ロスを調べる対象です。いずれも労働生産性の分母そのものではなく、付加価値や必要人数に影響し得る工程指標・改善対象です。

一方、現場の改善が付加価値の増加として表れるかは、生産量だけでなく、販売価格、中間投入、製品構成、在庫の動きにも左右されます。稼働率を上げて作った分が在庫に積み上がった場合、統計上の付加価値に反映されることはありますが、販売代金の回収にはつながらず、保管費や資金負担が増える可能性があります。

現場の指標が改善しても、決算上の労働生産性が変わらない場合があります。理由を説明するには、工程指標の変化を、在庫・価格・中間投入・製品構成・人員などの変化と合わせて確認する必要があります。

左に設備総合効率・タクトタイム・段取り時間・チョコ停の4つの工程の指標を縦に並べ、右向きの太い矢印で1人当たり労働生産性=付加価値÷就業者数につなぎ、矢印の下に在庫・価格・中間投入・製品構成と添えた図
図1 工程の指標と1人当たり労働生産性のつながり

設備側の指標の作り方はOEE(設備総合効率)とは?計算式の3要素とデータの取り方・使い方、時間の基準の置き方はタクトタイムはどう計算する?稼働時間の決め方とサイクルタイムとの違いで扱っています。止まる時間を削る手順は外段取り・内段取りとは?段取り時間を短縮する4つの手順と金額換算にまとめました。生産性まわりの記事は生産性のテーマページから辿れます。

自社の計算は定義・記録・比較の順に整える

数字が動いた理由を説明できるよう、計算の定義を決め、記録の精度を確かめてから、同じ単位で比較します。

  1. 定義を1つに決める:分子を何にするか、分母を何にするかを紙に書いて固定する。途中で変えない
  2. 分子を決算書から作る:損益計算書のどの項目を足し引きするかを経理と決める。四半期ごとに同じ手順で作れる形にする
  3. 分母の記録を確かめる:人数だけか、時間まで取るか。時間を使うなら、記録が実態と合っているかを先に見る
  4. 時系列で並べる:単年では判断しない。3年から5年並べて、上下した年に何があったかを書き添える
  5. 現場の指標と突き合わせる:稼働率が上がった期に付加価値が動いたか。動いていなければ、在庫、価格、中間投入、製品構成、人員のどれが相殺したかを確認する

聞く相手は分かれます。分子の作り方は経理、分母の人数と労働時間は人事と労務、現場の指標との突き合わせは生産管理です。国の統計と比べたいときは、その統計の定義解説を先に読んでください。

よくある質問

自社の値を1,141万円と比べられるか

そのままでは比べられません。この値は国民経済計算の産業別付加価値を労働力調査の就業者数で割った、製造業全体の値です。企業の決算書から作る付加価値とは集計方法が異なり、企業規模や業種構成も一致しません。近い定義にそろえた場合でも、自社の位置を厳密に判定する基準ではなく、参考値として見てください。

分子と分母のどちらから改善するか

一概には言えません。ただし分母だけを削る場合は、人を減らしても付加価値が同じだけ減らない見込みが要ります。分子を増やす場合は、売価、生産量、製品構成、中間投入の削減のどれを動かすのかを先に決めます。どちらの場合も、動かす要因を区別して記録すると結果を説明しやすくなります。

時間当たりと1人当たりをどう使い分けるか

人員計画や採用を検討するなら1人当たり、残業削減や勤務時間の見直しなら時間当たりが向いています。両方を並べると、人を増やさず残業で生産を回している状態が分かることがあります。

定義を固定し、現場指標と経営の数字を照合する

  • ものづくり白書の労働生産性は、経済活動別付加価値の合計を就業者数で割った値。分子は内閣府の国民経済計算、分母は総務省の労働力調査
  • 2024年の製造業は1人当たり1,141万円、全産業は927万円。製造業は高い水準を保つが、2015年からの伸びは約7.6%で全産業の約8.7%を下回る
  • 分母の数え方で答えが変わる。在籍人数・常用換算・総労働時間のどれを使うかを先に決め、途中で変えない
  • 設備総合効率や段取り時間は工程指標。改善が付加価値・必要人員・労働時間にどう反映されたかを別途確認する
  • 自社で測るときは、定義の固定→分子の作成→分母の記録確認→時系列で並べる→現場指標との突き合わせの順に進める
  • #労働生産性
  • #付加価値
  • #生産性向上
  • #指標
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