「生産性を上げろ」と言われたとき、最初に困るのは何を測るかです。工場には稼働率や不良率など現場の数字が並んでいますが、経営で語られる生産性はそれとは別の指標を指しています。ここで扱う1人当たり労働生産性は、生み出した付加価値を人の数で割った値です。OEEなどの設備指標とは、測る対象も計算式も異なります。
まず定義をそろえ、次に製造業全体の実数を見て、最後に現場の指標とどうつながるかを確認します。自社で計算するときにどこでつまずくかも、あわせて整理します。
労働生産性は「付加価値÷人」。何を割るのかを先に決める
2026年版ものづくり白書が示す製造業の1人当たり名目労働生産性は、明示された計算式に基づいています。2026年版ものづくり白書は、名目労働生産性を経済活動別付加価値の合計を就業者数で割った値だと注記しています。分子は付加価値、分母は人の数です。
ここでいう付加価値は、内閣府の国民経済計算にある経済活動別の国内総生産です。就業者数は総務省の労働力調査から取っています。つまりこの数字は、国全体の統計を製造業という産業単位でまとめたものです。個々の工場の社内計算値を、そのまま単純合算した指標ではありません。
この点は最初に押さえてください。統計の生産性と自社の生産性は、計算の材料が違います。自社の数字を国の平均と並べたいなら、分子と分母の定義をそろえる作業が先に必要です。
労働生産性には、産出量で測る物的労働生産性と、付加価値で測る付加価値労働生産性があります。ここで扱うのは後者のうち、付加価値を就業者数で割る「1人当たり名目労働生産性」です。
製造業は1人当たり1,141万円。全産業の1.2〜1.3倍で推移している
実数を見ます。2026年版ものづくり白書の図によると、2024年の製造業の1人当たり名目労働生産性は1,141万円でした。全産業は927万円です。製造業のほうが高い水準にあります。
1人当たり名目労働生産性の推移
データを表で見る
←→ 横にスクロールできます
| 年 | 製造業 | 全産業 |
|---|---|---|
| 2015 | 1,060 | 853 |
| 2016 | 1,065 | 857 |
| 2017 | 1,080 | 861 |
| 2018 | 1,088 | 848 |
| 2019 | 1,074 | 844 |
| 2020 | 1,043 | 824 |
| 2021 | 1,080 | 850 |
| 2022 | 1,055 | 862 |
| 2023 | 1,138 | 906 |
| 2024 | 1,141 | 927 |
読み取れることは3つあります。第一に、製造業は全産業より高い水準を保っています。白書も、製造業は全産業と比較して高い水準で推移していると書いています。
第二に、伸び方は全産業と大きく変わりません。2015年から2024年までで製造業は1,060万円から1,141万円へ、率にすると約7.6%増えました。同じ期間の全産業は853万円から927万円で、約8.7%増です。水準の高さは維持していますが、両者の差に明確な拡大傾向があるとはいえません。
第三に、途中で落ち込んだ年があります。2020年は1,043万円まで下がり、2022年も前年の1,080万円から1,055万円へ低下しました。名目付加価値は景気や価格変動の影響を受け、就業者数も雇用情勢などによって変わるため、単年の増減だけで自社の努力を評価することはできません。
なお、ここで示した増加率は名目値によるもので、物価変動を除いた実質的な生産性の伸びを示すものではありません。
分母の数え方で、答えは大きく変わる
自社で計算するときにいちばん揉めるのは分母です。人を何人と数えるかで、同じ付加価値でも生産性は違う値になります。
統計にも、この難しさへの対処が書かれています。財務省の法人企業統計調査では、従業員数を常用者の期中平均人員と当期中の臨時従業員の合計としています。そして臨時従業員は、総従事時間数を常用者の1か月平均労働時間数で割って人数に換算します。臨時従業員については、従事時間をもとに人数へ換算しているわけです。
工場の現場に当てはめると、論点は次のようになります。
←→ 横にスクロールできます
| 分母の候補 | 向いている場面 | 注意すること |
|---|---|---|
| 在籍人数 | 年度単位で大づかみに見る | 残業や短時間勤務の差が消える |
| 常用換算の人数 | パート・臨時が多い工場 | 換算のルールを毎回そろえる |
| 総労働時間 | 時間短縮の効果を見る | 時間の記録が正確でないと使えない |
派遣・請負の費用と人員の扱いは、採用する統計や算式によって異なります。比較対象の定義資料で確認してください。
現場指標の改善が、付加価値や人員の変化にどうつながったかを見る
ここが工場で誤解されやすいところです。設備総合効率、タクトタイム、段取り時間、チョコ停は、設備の稼働状況や生産ペース、工程内の時間ロスを把握するための指標・改善対象です。これらは労働生産性の分母そのものではなく、付加価値や必要人員に影響し得る工程指標です。
一方、現場の改善が付加価値の増加として表れるかは、生産量だけでなく、販売価格、中間投入、製品構成、在庫の動きにも左右されます。稼働率を上げて作った分が在庫に積み上がった場合、統計上の付加価値に反映されることはありますが、販売代金の回収にはつながらず、保管費や資金負担が増える可能性があります。
現場の指標が良くなったのに決算では生産性が動かない。この食い違いを説明するには、工程指標と、在庫・価格・中間投入・製品構成・人員などの変化を結び付けて確認する必要があります。

設備側の指標の作り方はOEE(設備総合効率)とは?計算式の3要素とデータの取り方・使い方、時間の基準の置き方はタクトタイムはどう計算する?稼働時間の決め方とサイクルタイムとの違いで扱っています。止まる時間を削る手順は外段取り・内段取りとは?段取り時間を短縮する4つの手順と金額換算にまとめました。生産性まわりの記事は生産性のテーマページから辿れます。
自社で測るなら、この順序で組み立てる
順番を間違えると数字が動いた理由を説明できなくなります。定義から入り、記録の精度、比較の単位へと進めます。
- 定義を1つに決める:分子を何にするか、分母を何にするかを紙に書いて固定する。途中で変えない
- 分子を決算書から作る:損益計算書のどの項目を足し引きするかを経理と決める。四半期ごとに同じ手順で作れる形にする
- 分母の記録を確かめる:人数だけか、時間まで取るか。時間を使うなら、記録が実態と合っているかを先に見る
- 時系列で並べる:単年では判断しない。3年から5年並べて、上下した年に何があったかを書き添える
- 現場の指標と突き合わせる:稼働率が上がった期に付加価値が動いたか。動いていなければ、在庫、価格、中間投入、製品構成、人員のどれが相殺したかを確認する
聞く相手は分かれます。分子の作り方は経理、分母の人数と労働時間は人事と労務、現場の指標との突き合わせは生産管理です。国の統計と比べたいときは、その統計の定義解説を先に読んでください。
よくある質問
自社の生産性を1,141万円と比べてよいですか
そのままでは比べられません。この値は国民経済計算の産業別付加価値を労働力調査の就業者数で割った、製造業全体の値です。企業の決算書から作る付加価値とは集計方法が異なり、企業規模や業種構成も一致しません。近い定義にそろえた場合でも、自社の位置を厳密に判定する基準ではなく、参考値として見てください。
生産性は分子と分母のどちらから手を付けますか
一概には言えません。ただし分母だけを削る場合は、人を減らしても付加価値が同じだけ減らない見込みが要ります。分子を増やす場合は、売価、生産量、製品構成、中間投入の削減のどれを動かすのかを先に決めます。どちらの場合も、動かす要因を区別して記録すると結果を説明しやすくなります。
時間当たりと1人当たりのどちらで見ますか
目的で使い分けます。人員計画や採用の話なら1人当たり、残業削減や勤務時間の見直しなら時間当たりが向いています。両方を並べると、人を増やさずに残業で回している状態が見えることがあります。
まとめ
- ものづくり白書の労働生産性は、経済活動別付加価値の合計を就業者数で割った値。分子は内閣府の国民経済計算、分母は総務省の労働力調査
- 2024年の製造業は1人当たり1,141万円、全産業は927万円。製造業は高い水準を保つが、2015年からの伸びは約7.6%で全産業の約8.7%を下回る
- 分母の数え方で答えが変わる。在籍人数・常用換算・総労働時間のどれを使うかを先に決め、途中で変えない
- 設備総合効率や段取り時間は工程指標。改善が付加価値・必要人員・労働時間にどう反映されたかを別途確認する
- 自社で測るときは、定義の固定→分子の作成→分母の記録確認→時系列で並べる→現場指標との突き合わせの順に進める
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。