工場の空調を見直すときは、まず場所ごとに必要な環境を確認します。この記事でいう空調は、温度・湿度・換気などを整える設備です。同じ建屋でも、製品の製造・保管、働く人の作業、事務所では守る条件が違います。まとめて一つの設定で運転すると、必要以上の運転につながります。
最初に決めたいのは、どの区画を、いつ、何度で、どれだけ換気するかです。省エネ法の判断基準を示す告示は、こうした運転条件を「管理標準」に定めるよう求めています。管理標準は、条件や点検方法を文書にしたもので、担当者の引継ぎや継続した点検にも使います。
告示には、空調の管理、計測・記録、保守・点検、新設・更新の4項目があります。それぞれ何を決めるかを、この記事で確認します。関連する記事はエネルギーのテーマページにまとめています。
管理標準には、区画と運転条件を定める
省エネ法の条文は、工場の空調温度を具体的な数字で決めていません。国が事業者の判断基準を定め、公表する仕組みを設けています。空調の運転条件は、その判断基準を示す告示で確認します。
エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(昭和54年法律第49号。以下、省エネ法)第5条第1項は、主務大臣が「工場等においてエネルギーを使用して事業を行う者の判断の基準となるべき事項」を定めて公表すると規定しています。これを受けた告示が、後で見る判断基準です。
省エネ法第6条は、主務大臣が判断基準を踏まえ、必要な指導・助言を行えると定めています。対象は、工場等でエネルギーを使って事業を行う者です。使用量の大小だけで対象を限定していません。
一方、省エネ法第7条第1項は、全工場等の年度のエネルギー使用量の合計が政令で定める数値以上の者を特定事業者として指定すると定めています。その数値は同法施行令(昭和54年政令第267号)で原油換算1,500キロリットルとされています。
原油換算とは、電気や燃料など種類の違うエネルギーを原油の量に置き換えてそろえる数え方です。工場ごとではなく、その事業者が設置しているすべての工場等を合計して判定します。合計の出し方も施行令に規定されています。
管理、計測、保守、更新の4項目を確認する
空調で何をすべきかは、経済産業省告示第66号「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」に書かれています。平成21年3月31日の制定で、令和7年12月26日の経済産業省告示第185号まで改正されています。
この記事では、告示のⅠの2「2―2 工場等(2―1に該当するものを除く。)におけるエネルギーの使用の合理化に関する事項」のうち、空気調和設備・給湯設備の部分を取り上げます。
空調に関する項目は、①管理、②計測及び記録、③保守及び点検、④新設・更新に当たっての措置です。告示が示すのはこの項目構成で、実施順序や「更新を最後にする」という決まりではありません。この記事では、現状を確認してから設備投資を考えやすい順序として整理します。
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| 段階 | 告示が求めていること | 実務上用意したいもの(本記事の整理) |
|---|---|---|
| ① 管理 | 区画を限定し、運転時間・温度・換気回数・湿度などの管理標準を設定する | 区画の一覧と、区画ごとの条件 |
| ② 計測及び記録 | 区画の空気の状態、個別機器と設備全体について、効率改善に必要な計測・記録の管理標準を定め、定期的に実施する | 温湿度計の設置場所と記録様式 |
| ③ 保守及び点検 | フィルターの目詰まり、凝縮器に付いた汚れであるスケールの除去などの管理標準を定め、定期的に実施する | 点検周期と担当 |
| ④ 新設・更新 | 必要な負荷に応じた設備を選び、効率を上げる措置を講じる | 更新計画と負荷の実測値 |
第3列は告示に明記された書類名ではありません。各項目を工場で運用するために整理した実務例です。

この順で考えると、決めた運転条件に合わせて測定項目を選び、その記録を更新時の必要能力の検討に使えます。運転実績や設計条件を十分に確認しないと、能力が大きすぎたり、足りなかったりするおそれがあります。
補助金の公募に合わせ、機器の型式から検討を始める場合も、区画の一覧と直近の温度・湿度の記録を先に用意してください。更新前の条件を記録すれば、エネルギー使用量と合わせて、更新後の効果を比べやすくなります。
圧縮空気やボイラーも、同じ告示で管理標準を求められる設備です。空調と同様に、運転条件と点検方法を決める考え方を使います。圧縮空気についてはコンプレッサのエア漏れ対策で説明しています。
製造区画と事務所は、分けて決める
告示は、製造・貯蔵や作業環境のための空調と、工場内の事務所等の空調を分けています。それぞれ次の条件を管理標準に定めます。
- 製造・貯蔵と作業環境のための空調。対象区画を限定して空調の負荷を減らし、その区画の使い方に応じた運転時間、温度、換気回数、湿度などを定めます。
- 工場内の事務所等の空調。対象区画を限定し、ブラインドなどで負荷を減らします。運転時間、室内温度、換気回数、湿度、外気の有効利用を定め、冷暖房温度は政府の推奨する設定温度も考慮します。

政府の推奨温度を考慮するという記述は、事務所等に付いています。製造・貯蔵の区画では、製品と働く人のために必要な条件を先に確認します。
両方に共通するのは、空調する区画を限定することです。告示は、温度設定より先に、どこを空調するかを挙げています。
全社で温度設定をそろえると、製造区画では品質条件と合わず、事務所では必要以上の運転が残るおそれがあります。まず図面で区画を分け、それぞれ何のために空調するかを書き込みます。
区画の状態と、設備の効率をそれぞれ記録する
告示は、計測・記録を独立した項目として定めています。確認する内容は、区画と設備の大きく2種類です。
- 空調する区画の温度・湿度など、空気の状態と空調効率の改善に必要な事項を測り、記録します。
- 熱源設備、熱を運ぶ設備、空気調和機について、個別機器と設備全体の効率改善に必要な事項を測り、記録します。
区画の温度だけでは、熱源機が必要以上に動いている状況を確認できません。機器の効率だけでは、空調が不要な場所にも運転していることを確認できません。区画の空気の状態と、個別機器・設備全体の効率を、それぞれ計測・記録します。
区画ごとの空調の使い方は、工場全体の電気の使い方に直結します。最大需要電力が決まる時間帯に空調が重なっていないかは、別途確かめる価値があります。契約電力の決まり方はデマンド監視装置と契約電力の記事で扱っています。
測定場所も記録様式に書いておきます。入口付近と熱がこもりやすい奥では、値が違うためです。どの場所の値を管理標準の温度として使うかを決めてください。
記録を誰が確認するかも決めておくと、運用を続けやすくなります。例えば製造部門が区画の温度・湿度、保全部門が熱源とポンプの運転、管理部門が電気使用量を確認する分担です。使用量の見方は工場の電気代を削る順序で説明しています。
更新時は、必要な能力と空調負荷を見直す
新設・更新について、告示は機器選びとともに、空調が必要な範囲や、建屋に出入りする熱を減らす措置も挙げています。ここでは4つの方向に整理します。
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| ねらい | 告示が挙げている措置 |
|---|---|
| 空調する範囲を絞る | 区画ごとに制御できる設備を採用する。全域の空調が不要なら、働く人の近くを空調する局所空調や放射暖房を使い、空調する容積を小さくする |
| 建屋から逃がさない | 壁・屋根、配管・ダクトの断熱を高める。窓のフィルム・ブラインド・複層ガラスを使い、隙間や開口部を閉じる |
| 外気と排熱を扱う | 全熱交換器で外気導入時の負荷を減らす。中間期・冬期に外気冷房を行い、生産設備の熱を空調区画の外へ直接出す |
| 機器を負荷に合わせる | 効率の高い熱源を使うヒートポンプやガス冷暖房を採用する。設備を複数台に分けて台数を制御し、回転数で風量・流量を変える。室外機の設置場所も検討する |
法令上の「特定エネルギー消費機器」に当たる空調機器を更新する場合は、製造事業者等の判断基準に定める基準エネルギー消費効率以上のものを採用することも求められます。カタログの表示を確認するとともに、その基準を満たすか販売店に確かめてください。
計測の仕組みも新設・更新時の項目に含まれています。告示は、計量器・センサーの設置とFEMS(工場のエネルギー使用をまとめて管理するシステム)等の採用を挙げています。区画の温湿度や設備の運転状況をどのように計測・分析するかは、工場の設備構成に応じて設計します。工場の環境条件と電気代の兼ね合いは、運営会社である恒電社の精密加工の工場での導入事例でも触れられています。
よくある質問
設定温度を1度変えると、どれくらい削減できるか
削減率の一般値は、確認した公的資料の範囲では見当たりませんでした。効果は区画の断熱、外気の入り方、機器の性能で変わります。まず区画ごとの温度と使用量を記録し、自社の条件で前後を比べてください。
使用量が少ない工場にも管理標準は必要か
判断基準と第6条の指導・助言は、使用量の大小だけで対象を限定していません。ただし、第6条自体は、すべての事業者に管理標準の作成義務を直接課す規定ではありません。原油換算1,500キロリットル以上は特定事業者の指定基準です。空調の判断基準と、指定・報告の制度を分けて確認してください。
製造区画の温度は、何を根拠に決めるか
告示は、製造・貯蔵と作業環境を保つ管理標準を求めていますが、具体的な温度は示していません。製品の仕様、工程条件、作業環境についての社内の取り決めを確認し、品質と安全の担当者を交えて決めてください。
区画の条件と記録をそろえて、更新を検討する
- 省エネ法は温度そのものを条文で定めず、国が事業者の判断の基準となる事項を告示で示す仕組みを取っている
- 告示は空調について①管理 ②計測及び記録 ③保守及び点検 ④新設・更新に当たっての措置を規定している。本記事では、これらを実務上検討しやすい順に整理した
- 工場の空調は、製造・貯蔵と作業環境のための区画と、工場内の事務所等に分けて管理標準を決める
- 政府の推奨する設定温度を勘案するという記述が付くのは、事務所等の側だけ
- 新設・更新に当たって告示が挙げる措置は、本記事では、区画を絞る・建屋から逃がさない・外気と排熱を扱う・機器を負荷に合わせる、という4方向に整理できる
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
製造業の電気設備・自家消費型太陽光発電の現場に携わる立場から、実務上の誤解を招かないかを確認しています。