雇入れ時の安全衛生教育は、新たに働く人へ、担当する仕事の危険と安全な作業方法を教えるものです。工場では、配属先の設備や材料、作業手順に合わせて内容を決めます。担当業務を特定し、必要な教育を行い、実施内容を残す順で進めます。
労働安全衛生法は、雇入れ時と作業内容を変えたときの教育を事業者に求めています。危険・有害な業務には、別に特別教育が必要な場合もあります。まず担当業務を決めます。実際にどの作業に就くかを現場責任者と確認します。
雇入れ時教育の対象と実施時期を確認する
新たに労働者を雇い入れたら、担当業務に関する安全衛生教育を遅滞なく行います。厚生労働省の安全衛生教育の説明によれば、業種・職種・雇用形態による対象外の区分はありません。短期の雇用も対象です。
作業内容の変更も対象です。たとえば組立から検査へ担当が変わり、使う測定器や薬品、作業手順が変わる場合です。労働安全衛生法第59条第2項は、作業内容変更時にも教育を求めています。
「遅滞なく」は、入社から一律何日以内という固定日数ではありません。初めて機械を扱う人に、操作後の集合研修だけで済ませる設計は避けます。配属日と最初の作業を確認し、その作業に必要な説明と実地の確認を先に組みます。
工場共通の避難経路と、配属先でしか使わない機械の手順は分けて準備できます。共通事項は安全衛生担当者、設備ごとの事項は現場責任者に内容を確認します。担当表には、教える項目と担当者を並べます。
法令の8区分を担当業務へ当てはめる
教育内容は、労働安全衛生規則第35条の8区分から、その人の業務に必要な事項を選びます。厚生労働省の労働安全衛生規則第35条が原文です。以下の工場での確認例は、法令の区分を現場作業へ当てはめた編集部の整理です。
←→ 横にスクロールできます
| 規則第35条の区分 | 現場で確認する内容の例 |
|---|---|
| 機械・原材料等の危険性・有害性と取扱い | 担当設備の挟まれ箇所、使用材料の危険性 |
| 安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能と取扱い | 安全装置の位置、保護具の使い方 |
| 作業手順 | 起動、停止、材料投入の手順 |
| 作業開始時の点検 | 始業前に見る箇所と異常時の連絡先 |
| 疾病の原因と予防 | 担当業務に伴う健康上の危険と予防策 |
| 整理・整頓・清潔 | 通路、置き場、清掃の決まり |
| 事故時の応急措置・退避 | 停止、退避、通報の順序 |
| その他必要な事項 | その工程で追加すべき安全衛生事項 |
この表は、すべての工場で同じ設備や教材を使うという意味ではありません。現場責任者が担当作業を洗い出し、安全衛生担当者と8区分を照らします。作業開始時の点検で何を見るかは、設備の動力プレスの始業前点検と定期検査の違いのように、機種ごとの手順で具体化します。
教育事項の全部または一部について、十分な知識と技能があると認められる人には、その事項を省略できます。経験者というだけで全項目を一律に省く意味ではありません。担当設備と作業方法を本人に説明してもらい、どこまで確認できたかを担当者が判断します。省略範囲も残します。

座学だけで終わらせず、作業を確認する
教育では、教えた内容を実際の作業と結び付けることが大切です。規則第35条は業務に必要な事項を定めていますが、どの工場にも同じ時間割を指定しているわけではありません。現場の設備、材料、担当者の経験に合わせて教え方を決めます。
たとえば始業点検なら、点検表を読むだけでなく、実機の点検箇所を示します。異常を見つけた場面を想定し、操作を止める条件と連絡先も確かめます。作業標準書を使う場合は、作業標準書を現場で試して改訂する方法に沿って、手順書と実際の動きのずれを確認できます。
説明を受けたことと、作業を理解したことは同じではありません。教えた後に本人へ手順を説明してもらい、実際に確認できる作業は担当者の前で行います。追加指導が必要な事項は未完了として記録し、その事項に関わる作業を本人だけで行わせる前に、再説明と理解確認を行います。
設備の呼び名が同じでも、現場で使う材料や安全装置の位置は異なる場合があります。教材に載せた機械と配属先の実機を照らし、指差しする箇所が合っているか確認します。教材と現物が違えば、教育担当者が内容を直してから次の説明に使います。
教える側が交替する場合は、誰がどの項目まで終えたかを担当表で引き継ぎます。未確認の作業を「教育済み」として次の担当者へ渡さないためです。理解確認を終えた項目と、追加で見せる必要がある項目を分けると、配属後の教育計画にも使えます。
配属後に設備や担当作業が変われば、前回の教材をそのまま配るだけでは足りません。新しい作業で必要な区分を確認し、変わった危険、点検、退避方法を補います。どの作業が変わったかは現場責任者に聞きます。
特別教育が必要な仕事は別に判定する
雇入れ時教育を終えても、危険・有害業務に就くには特別教育の要否を別に確認します。労働安全衛生法第59条第3項は、定められた業務の特別教育を求めています。対象業務の一覧は、労働安全衛生規則第36条です。
配属予定の作業名だけでは、対象か判断できないことがあります。使う機械の種類と作業方法を現場責任者から聞き、安全衛生担当者が規則と照らす必要があります。厚生労働省の特別教育と就業制限の説明では、特別教育のほかに免許や技能講習等が必要な業務も区別しています。
雇入れ時教育の記録と特別教育の記録は別欄にしておくと、配属前に不足を見つけやすくなります。前者を行っただけで、後者の対象業務へ就かせられると判断しません。資格が必要な業務なら、教育履歴とは別に資格も確認します。
教育記録には実施内容と理解確認を残す
雇入れ時教育の記録は、法令上の一律の保存年限と、実務上残したい履歴を分けて扱います。古川労働基準監督署の雇入れ時教育に関する周知資料は、記録保存を一般的な法令上の義務とはせず、日時と概要等の保存を勧めています。
厚生労働省の安全衛生教育の推進要綱も、教育を実施した結果を台帳等へ記録して保存する運用を示しています。法定年限がないことを「記録しなくてよい」と読み替えず、後から内容を確かめられる形にします。
←→ 横にスクロールできます
| 記録欄 | 残す内容の例 | 確認する人 |
|---|---|---|
| 対象と実施日 | 受講者、配属先、担当業務、教育日 | 人事・教育担当 |
| 教育の中身 | 第35条の該当区分、使った資料、実地で示した手順 | 現場責任者 |
| 理解と追加指導 | 本人に確認した作業、再説明した点、次の確認日 | 教育を行った人 |
| 省略した事項 | 知識・技能を確認した内容と、省略した区分 | 安全衛生担当者 |
この欄は記事内の記録案であり、国が定めた統一様式ではありません。保存期間は社内の文書管理ルールに合わせて定めます。指定事業場等には別の計画・報告規定があるため、該当性は安全衛生担当者が確認します。教育後に配属先が変わったら、古い記録を上書きせず、新しい作業に対応する教育を追記します。
記録が複数の部署に分かれる場合は、受講者名と担当業務から履歴を追える保管先を決めます。教材を改訂したときは、どの版を使ったかも記録します。同じ「教育済み」という印だけでは、当時教えた作業手順まで確かめられないからです。
同じ工程で複数の機種を使うなら、教育した機種も記録します。新しい機種を担当するときに、追加で教える内容を特定するためです。
特別教育の記録は扱いが異なります。規則第38条は、受講者と科目等の記録を作成し、3年間保存するよう求めています。この3年は法定年限です。雇入れ時教育の記録へ、同じ法定年限として転記しないようにします。

教育の一覧は、入社時だけでなく配置変更時にも使えます。どの業務に就く前に何を教えたかを追えるようにするためです。採用・人材テーマの一覧では、採用後の育成や定着に関する論点も確認できます。
よくある質問
経験者なら雇入れ時教育をすべて省略できますか?
経験があるという理由だけでは一律に省略できません。規則第35条は、その事項について十分な知識と技能があると認められる場合に、その事項の省略を認めます。担当する設備と作業を示し、何を確認したかを残します。
雇入れ時教育の記録は法律で3年保存ですか?
雇入れ時教育の記録に、一律3年という法定保存年限はありません。教育履歴は実務上残し、期間を社内で定めます。特別教育の受講者・科目等の記録には、規則第38条による3年保存義務があります。
配置を変えた人にも教育が必要ですか?
作業内容が変わるときは、新しい業務に必要な安全衛生事項の教育を確認します。前の作業で教えた内容を機械的に繰り返すのではなく、変わった設備・材料・手順を現場責任者と照らします。特別教育が必要な業務かどうかも別に判定します。
まとめ
雇入れ時の安全衛生教育は、担当業務に必要な事項を教えるものです。業務の特定、教育項目の選択、実施内容の記録を一人ずつ追える形にします。
- 雇入れ時と作業内容変更時には、担当業務に必要な教育を遅滞なく行う。
- 規則第35条の8区分を、実際の設備と作業へ当てはめる。
- 特別教育や資格が必要な業務は、雇入れ時教育とは別に確認する。
- 雇入れ時の教育履歴と、3年保存義務のある特別教育記録を分ける。
この記事の確認方法
株式会社恒電社 編集部
法令・告示・公的統計・白書など、国や行政が公表している原典にあたり、出典・前提条件・数字の扱いを編集部で確認しています。